これまでおよそ20年間、日本のセキュリティー市場をけん引してきたキーパーソンが先頃、新天地に活躍の場を移した。その名は、山野修氏。新天地は、アカマイ・テクノロジーズである。同社の社長に就いた山野氏はどんな抱負を持ち、新天地で何を実現したいと考えているのか。
セキュリティーに精通した経営者がアカマイに移った理由
「この20年、日本のIT市場でセキュリティー分野を中心に活動してきて、さまざまなビジネスの立ち上げにも携わってきた。そうした経験をアカマイで存分に生かしたい」――まずは「3月1日付でアカマイ・テクノロジーズの社長に就任された抱負を?」と聞いたところ、こんな答えが返ってきた。
同社の親会社である米Akamai Technologiesは、世界139カ国に展開する24万台以上のサーバー(エッジ)群によって構成される独自の分散型コンテンツ配信ネットワーク(CDN)「Akamai Intelligent Edge Platform」を通じて、オンライン上のコンテンツやアプリケーションの配信を高速に行うサービスを提供している(図1)。
Akamai Technologiesの概要(出典:アカマイ・テクノロジーズの資料)
2018年12月期のグローバル売上高は前期比9%増の27億ドル。現在、コンテンツを配信する「メディア」、ウェブサイトのパフォーマンスを向上させる「ウェブパフォーマンス」、クラウドサービスとして提供している「セキュリティー」の3事業に注力している。
山野氏によると、日本法人における2015年から2018年までのこれら3事業の推移においてセキュリティー事業がとりわけ急成長しており、3事業の売り上げ合計でも3年間で倍増したという。今後の事業戦略の詳細については、5月の記者会見で発表されたので関連記事をご覧いただくとして、本稿では同氏の新天地での意気込みとチャレンジについて聞いてみた。
これまでRSAセキュリティ(現Dell EMC)やマカフィーの日本法人などで社長を歴任し、20年にわたってセキュリティー市場をけん引してきた同氏の目から見て、Akamaiは米マサチューセッツ工科大学(MIT)発のベンチャーとして1998年に創業した当時から、その優れた技術に注目していたそうだ。
また、最近ではウェブパフォーマンスやセキュリティー事業も伸長しており、特にサイバーセキュリティーにおいてクラウドやネットワーク上での対策に注力している点に着目。そうしたところへ社長就任の要請があり、転身を決めたという。
そんな山野氏は、アカマイの社長として何をやりたいと思っているのか。今回のインタビュー取材から、筆者が印象強く感じた2つの点を記しておきたい。
セキュリティーやデジタル変革に向けたアカマイの強みとは
まず1つは、山野氏にとって思い入れの強いセキュリティー対策についてだ。その現状について、同氏は次のように説明した。
「サイバー攻撃の脅威は金銭的損失だけでなく、信用やロイヤルティーの失墜を招くため、その対策は企業などの組織の最優先課題になっている。また、巧妙化、複雑化する攻撃手法に加え、業務でのクラウド上のアプリケーションの利用やモバイル化の加速といった環境の変化によって、社内だけでセキュリティー対策を講じることができなくなっている」
その上で、Akamaiがやっていることについて、「当社はもともとCDNとして配備したAkamai Intelligent Edge Platformを生かした世界最大級の脅威インテリジェンスに基づいて、ウェブへの攻撃やDDoS(分散型サービス妨害)攻撃への対策にとどまらず、ビジネスに被害を与えるボット(編注:ここではマルウェア感染などにより悪用されるコンピューターのこと)の対策や巧妙なマルウェアの検知などの幅広いセキュリティーソリューションを、オンプレミス向けではなくネットワークの向こう側から提供している」と説明した。
ここで重要なのは、「セキュリティーをネットワークの向こう側から提供している」ことだ。「ネットワークの向こう側」とはAkamai Intelligent Edge Platformのエッジ群であり、それと連携しているクラウドである。これをして山野氏は「これからのセキュリティーはオンプレミスでなく、ネットワーク側で対応するのが主流になる」と断言した。
そして、もう1つの山野氏がやりたいことは、企業に向けたデジタルトランスフォーメーション(以下、デジタル変革)の支援である。その現状について、同氏は次のように説明した。
「ビジネスのデジタル化が加速する中、指数関数的に増加するモバイルデバイス、あらゆるモノがネットにつながるIoT、複数の企業サービスの組み合わせによって新たな価値を創造するAPIエコノミー、さまざまな分野における応用が期待されるブロックチェーンなどのメガトレンドに対して、集約型のクラウドではなく、分散型のアーキテクチャーによるアプローチがここにきて再注目されている」
そのニーズにまさしく合致するのが、Akamai Intelligent Edge Platformだと、同氏は強調した。このプラットフォームは分かりやすく言えば「インターネット網における高速道路網」で、エッジは「昔で言う“関所”(セキュリティー)の機能を持ったインターチェンジ」といったところか。これまでは大事なデジタルコンテンツを大量に扱う企業を中心に利用されてきたが、デジタル変革によって全ての企業がデジタル化するというトレンドの中で、「高速道路」がこれから多くの企業にどんどん利用される時代が来るということだ。
このポテンシャルはとても大きいのではないか。山野氏もデジタル変革需要については、「強い手応えを感じている」とのことだ。
アカマイ・テクノロジーズ職務執行者社長の山野修氏
ならば、最後に注文を――。Akamaiはインターネットの活用と発展を支えてきたテクノロジー企業として“知る人ぞ知る”存在だが、ビジネスのデジタル化が進むデジタル変革時代には、マネジメント層を含めた多くのビジネスパーソンにも認知され、親しまれるように、もっと前面に出てAkamaiの魅力を語るべきではないか。山野氏はその格好の“伝道師”にもなれるだろう。それも含めて、同氏の経営手腕に注目しておきたい。