MM総研主催の「MM総研大賞2019」の表彰式が7月11日、東京・シェラトン都ホテル東京で開催された。今回の大賞に富士通の「デジタルアニーラ」が選ばれるなど、選出各社の表彰が行われた。
MM総研大賞は、ICT分野の市場、産業の発展を促すきっかけとなることを目的に、2004年に創設した表彰制度。優れたICT技術で積極的に新商品、新市場の開発に取り組んでいる企業を表彰している。今回が16回目となる。
富士通のデジタルアニーラ
大賞のデジタルアニーラは、量子コンピューティングに着想を得たデジタル回路で、現在の汎用コンピューターでは解くことが難しい「組み合わせ最適化問題」を高速で解く新しい技術。「1京×1京通り以上」の組み合わせ問題も数秒で解くことができ、既に化学・製薬や物流、金融、製造など幅広い分野で活用されている。富士通では、2019年度中に100万ビット規模への拡大を予定しているという。審査委員会では、今後のデジタル革命を支えるプラットフォームとしてデジタルアニーラを高く評価したとしている。
表彰式で富士通 副社長の古田英範氏は、「MM総研大賞を富士通が受賞したのは初めてで感謝する。デジタルアニーラは、組み合わせ最適化問題に特化したコンピューターだが、さまざまな領域で使われると想定している。最も簡単なものは、セールスマンが一番短い時間や距離で5カ所の訪問先を巡回できるかを導き出す組み合わせ最適化問題になるが、世の中には従来のコンピューターでは解けない問題や、解くには時間がかかるものがあり、これをデジタルアニーラで解決できる」と述べた。
表彰状を受け取る富士通の古田副社長
デジタルアニーラは、2018年からサービスが提供され、既に600件を超える商談があるほか、海外からも引き合いがあるという。例えば、日本郵便が配送の最適化に活用したり、メガクラウドベンダーのサービスの一つとして提供したりするなどの事例がある。「いよいよ実用化段階に入ってきた。この技術とサービスによって世の中に貢献したい」と古田氏はコメントした。
デジタルアニーラを実現するDAU
今回のMM総研大賞では、スマートソリューション部門として9分野で10件が最優秀賞に選ばれたほか、コラボレーション部門賞、ものづくり優秀賞、話題賞などを含めて16件が表彰された。審査委員を務めた東京通信大学情報マネジメント学部長 教授の前川徹氏は、「情報社会の大きな変革を先取りするような製品、サービスがそろっていた。新時代の幕開けを象徴する製品が増え、選定に苦労した」と講評する。「これらは第4次産業革命を象徴する革新的な製品、サービス。今後も審査委員が選定に困るようなワクワクした製品、サービスが登場することを期待している」と述べた。
各賞での選定結果は次の通り。
スマートソリューション部門賞
- MaaS分野:MONET Technologies「MONETコンソーシアム」
- AI/IoT分野:NTT東日本のAI-OCRサービス「AIよみと~る」
- キャッシュレス決済分野:PayPay「PayPay」
- 次世代モバイルサービス分野:NTTドコモ「ドコモ5Gオープンパートナープログラム」
- 次世代固定ネットワーク分野:アルテリア・ネット ワークス「ARTERIA 光 インターネットアクセス」
- 次世代固定ネットワーク分野:ソニーネットワークコミュニケーションズ「NURO 光 10Gs」
- 生体認証分野:NEC「Bio-IDiom」
- RPA分野:NTTデータ「WinActor/WinDirectorエコシステム」
- 地域創生クラウド分野:NTT西日本および日本マイクロソフト「地域創生クラウド実現に向けた協業」
- 働き方改革支援ソリューション分野:グーグル・クラウド・ジャパン「G Suite」
コラボレーション部門賞
- KDDIおよび楽天「決済、物流、通信分野における事業協争の推進」
ものづくり優秀賞:
- 富士通「デジタルアニーラ」(※大賞と同時受賞)
話題賞
- コナミデジタルエンタテインメント「eスポーツへの取り組み」
- WHILL「WHILL 自動運転システム」
- クロスエフェクト「超軟質精密ウェットモデル」
- 空の移動革命に向けた官民協議会「空の移動革命に向けた官民協議会」
なお、MM総研の所長として7月1日付で、日本経済新聞社で記者、編集委員や論説委員などを務めた関口和一氏が就任した。表彰式では関口氏があいさつし、「情報産業は日本の基幹産業。ハードウェアとソフトウェアの両方ができるのが日本の強い点だ。ITはさまざまな世界を変えてきたが、昨今ではIT革命がDT(デジタルトランスフォーメーション)革命と呼ばれるようになり、データテクノロジー、デジタルテクノロジー、デジタルトランスフォーメーションが注目を集め、製造業、農業、医療などの現実の世界を変えようとしている。そうした時代の変化においても、MM総研は、情報技術の分野において役に立つ情報を発信していきたい」と述べた。
また、前所長の中島洋氏が特別顧問に就任した。同氏は、「16年半に渡って所長を務め、16回のMM総研大賞にも審査委員として関わった。情報産業は日本の一番強い産業だと思っていたが、1990年代に急速に力を失い、情報産業をもう一度元気にしたい、情報技術の芽を発掘して表彰していこうという狙いからMM総研大賞を創設した」と語った。
同氏によれば、しばらくの間は日本企業を表彰したくとも、相当するものが日本企業から出てこないという時期が続いたという。しかしここ数年は、情報産業の本流ともいえる企業が台頭するようになり、「5Gや自動運転、AI(人工知能)、生体認証、RPAでも日本の企業からすばらしいものが出てきた。日本企業の復活を感じさせる」と評価する。
表彰式の懇親会では、日本経済新聞社 常務取締役の渡辺洋之氏が登壇、「表彰の製品やサービスから感じたのは、これからは『フルデジタル時代』を前提にしないと、変化の流れに追いつけなくなるということ。世の中の変化は、これまで以上に大きなものになるだろう」とあいさつした。
MM総研大賞2019で表彰された各社関係者