あるメーカーの情報システム部に勤める中野さん。ある日、上司である豊島部長から「君に頼みたい仕事がある」と呼び出されます。プライベートでは彼女との結婚話も出ていて、同居の話も出ています。プライベートも忙しいし、あまり重い話でないといいな、と思いながら話を聞きにいくと、「まずはこれを見てくれ」と渡された書類には…。
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「データセンター事業者からの連絡……そろそろ契約更新の時期だったかな。えっ、データセンター事業の終了だって?! 新規受け入れは今年で停止、完全クローズまでは3年後?!」
社内システムで利用しているデータセンター事業者から突然こんな連絡が来たら、情報システム部の担当者は驚いてしまいます。ただ、このようなケースは、契約先の事業者や自社で運営しているデータセンターでも今後起きていく可能性があります。
これは、国内の多くのデータセンターが、1990年代に建設され、30年あまりが経とうとしているいま、電源や空調などの設備機器の更新時期が迫っていることと関連があります。機器の高密度化が進むにつれてラックあたりに求められる電力量は増え、発熱量の増大にともない空調機器もより高出力のものが求められる傾向にあります。一方で設備機器の更新には数億円単位の予算が必要となり、事業者には大きな負担です。
また、データセンターの需要や利用のされ方についても変化が起きています。自社保有のデータセンターから事業者でのホスティングからハウジングへ、さらにハードウェアやデータセンターという考えのないクラウドの利用が増える中で、必要とするデータセンターのフロア床面積は徐々に減っていき、契約する単位もフロア単位からラック単位へと縮小する傾向が顕著になっています。
「クラウド利用が進んで、データセンターに置いているハードウェアが減ったのに、フロアをまるごと借りているなんて無駄じゃないか。広さを半分にできないか?」といった依頼が突然上長や経理部門から突き付けられることもありえます。
このような背景をもとに、自社で運営しているデータセンター、事業者の提供するデータセンター利用とも、今後自社システムの配置先となるセンターを見直し、変更し、移転しなくてはならないという可能性が高まることが予想されます。
「長期的な視野をもってシステムの配置計画を確立し、データセンターの刷新を決断しなくてはならない」というのがあるべき姿ではあっても、日常のシステム運用のなかでは重要度の高いテーマにはなりえず、データセンター事業者から移転を提案されてはじめて、老朽化などの課題に気付くのが実情でしょう。
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「そういうわけで、君には新しいデータセンターを探して、今のデータセンターの廃止までにシステムを移転させるプロジェクトのリーダーになってもらいたい」
突然大ごとを押し付けられてしまった中野さん。「3年といっても、止めにくいシステムもあるしなあ。時間がないぞ、早く移転先のデータセンターを探さなきゃ、データセンター事業者の一覧を作って、資料を請求して、ラック単価を調べて、見積もりを出して……。こんなプロジェクトは初めてだし、先輩にもやったことがある人もいない!」