デジタル技術で不動産ビジネスに変革を--三井不動産が注力するデジタル人材育成

藤本和彦 (編集部)

2019-08-21 07:00

 オフィスビルや商業施設を展開する三井不動産は、2019年を「Real Estate as a Service元年」と位置付け、不動産ビジネスのデジタル変革(DX)を目指している。2018年8月にグループ長期経営方針「VISION2025」を策定し、「テクノロジーを活用し、不動産業そのものをイノベーション」を掲げた。

 具体的には、グループ全体で不動産とデジタルの知識・経験を掛け合わせた“デジタル人材”の育成を進め、「事業変革」「働き方改革」「システム先進化」の3つを柱としたITイノベーションを推進する。デジタル技術を用いた新たな顧客満足やビジネスモデルの創造や多様な社員が生産性高く働ける環境の構築などを目指している。

 執行役員 ITイノベーション部長の古田貴氏は「不動産業界はデジタル化が遅れているという意識が強かった。デジタル技術による破壊的変革や人手不足に対する危機感も募っていた」と話す。

 三井不動産は、将来のデジタルビジネスを担う人材の育成と新サービスの創出を促進する場として、ITイノベーション部内に「デジタルラボ」を設置。デジタルシンキングを活用したサービス開発の実践型研修を実施している。

 デジタルラボには、主要事業部門から若手社員10人が参加し、ビジネスアイデアの企画手法を学ぶ。そこで生まれたアイデアは、プロトタイプでの実証実験(PoC)を経て、事業化を目指す。現在は事業化に向けて3件のプロジェクトを検討中とのこと。業務時間の10%ほどを割いて、協力企業であるNTTデータの共創拠点などを使って講義やワークショップを行う。

 「不動産業のサービス化が進む中、顧客との距離が近くなるということを理屈ではなく、経験してもらうことが大事だと考えている」(古田氏)

 また、経営企画部の事業提案制度「MAG!C」、ベンチャー共創事業部のオープンイノベーションプラットフォーム「31 VENTURES」という仕組みを整備・強化することで、ITイノベーション部のデジタルラボと密接に連携し、ビジネス変革を支えるイノベーションハブの機能を担っている。

 2019年4月には、DXの推進に積極的に取り組んでいる企業として経済産業省と東京証券取引所によって「攻めのIT経営銘柄2019」に選定された。イノベーションハブ組織と仕組み整備の取り組みや、ビル事業を革新するシェアオフィス事業の本格化が評価された。

 デジタル活用の具体的な事例としては、大型商業施設「三井ショッピングパーク ららぽーと名古屋みなとアクルス」で導入されている人工知能(AI)を利用した空調制御システムがある。これは、AIによる画像解析を利用した空調システム。施設内外の環境や来館者の服装・年代や性別などをカメラ画像で解析し、その構成割合や特性に合わせた快適性を配慮した空調制御を行うというもの。また、天気予報や外気温湿度、館内人数予測、イベント情報といったデータをもとに施設のエネルギー需要を予測し、その予測結果に基づいて館内空調を制御することで、運転効率の向上を目指している。

 働き方改革とシステム先進化の取り組みについては、基幹系システムのフルクラウド化を進めている。2019年4月には決済システムと会計システムの統合化を実施し、会計機能に「SAP S/4HANA」を導入。フルクラウドのシステムを構築した。さらに、部門固有の業務フローを統一・システム化し、年間約5万8000時間分の業務量を削減した。モバイル承認機能の導入によって、モバイルワークの促進にもつながると期待を寄せる。

 「現在、クラウド化は60%ほど完了した」(古田氏)という。Amazon Web Services(AWS)やMicrosoftのAzure、Office 365など、さまざまなクラウド環境を適材適所で使い分けていると語る。

 同氏によると、当時の情報システム部は2014年に「攻めのIT」へのシフトを宣言。そこから経営や事業現場への情報発信と対話を積極化させ、IT組織と人材を含む強化戦略を推進してきた。2017年には「情報システム部」から「ITイノベーション部」へと名称を改め、グループ全体を変革していく中核組織と位置付けた。デジタル技術を今後の成長戦略に必要不可欠なものと捉え、デジタル人材が5年後、10年後の三井不動産を作り上げていくと強調した。

(左から)ITイノベーション部 企画グループ 主事の足立祥一氏、執行役員 ITイノベーション部長の古田貴氏、ITイノベーション部 開発グループ 主事の髙田徹夫氏
(左から)ITイノベーション部 企画グループ 主事の足立祥一氏、執行役員 ITイノベーション部長の古田貴氏、ITイノベーション部 開発グループ 主事の髙田徹夫氏

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