IBMはRed Hatを買収したが、Red Hatの最高技術責任者(CTO)Chris Wright氏が最近筆者に語ったように、同社は「IBMとはまったく別の組織」だ。そのことを示すかのように今回、「Ubuntu Linux」の開発元であるCanonicalの創業者で最高経営責任者(CEO)のMark Shuttleworth氏と、IBMで「IBM Z」や「IBM LinuxONE」を担当するゼネラルマネージャーを務めるRoss Mauri氏が、金融ITサービス分野の上級管理職向けにラウンドテーブルディスカッションのイベントをニューヨーク市で共同開催した。
このイベントの場で両氏は、Ubuntu Linuxをベースとするメインフレームのクラウドシステム上で金融サービスを稼働させる利点についてマネージャーらに語った。なぜだろうか?要するに、Zシリーズ上で「Red Hat Enterprise」(RHEL)が稼働するのと同様に、Ubuntu Linuxも稼働するのだ。Shuttleworth氏はインタビューで、「顧客はメインフレームのセキュリティとUbuntuの柔軟性を求めている。そして、UbuntuとZを求める顧客もおり、IBMはその選択肢を用意している」と説明している。
Shuttleworth氏は、Red HatがIBMによって買収された後も「IBMとの連携で不満を感じることはない」と述べたうえで、「Zや『IBM Power Systems』『IBM Cloud』のプロジェクトを推進し続けている。Ubuntuはこれらすべてのプラットフォーム上で成長している」と続けている。
また同氏は、「古くからある銀行や金融関連企業は、クラウドについて、さらにはDevOpsの新たな形態についても理解し始めている。そして新たな企業のなかには、ZとUbuntuを組み合わせているところもある。われわれは金融サービス業界において、IBMとともに素晴らしい勝利を手にしている」と述べている。
その一例が、「Digital Asset Custody Services」(DACS)だ。これはデジタル資産に対する迅速なアクセスを提供しつつ、スマートコントラクトをセキュアなかたちで管理するシステムだ。Shuttle Holdingsの会長兼最高投資責任者であるBrad Chun氏は、「暗号資産市場は、わずか数年でゼロから、数億ドル規模の価値を持つまでになったが、その成長はまだ始まったばかりだ。しかし、この市場の規模はあまりにも早いペースで拡大しており、それを支えるインフラの開発が追いついていないため、2018年だけで数十億ドルのデジタル資産が盗難の憂き目に遭っている」と述べている。
これはChun氏にとって本当に頭の痛い問題だった。同氏は、「私がデジタル資産を取引するためのヘッジファンドを設立した際、セキュリティとアクセシビリティーを両立させたデジタル資産管理のソリューションが存在していないという問題にすぐに直面した」と述べている。このため同氏は、CanonicalとIBMに支援を求めた。そして、Ubuntu Linuxの稼働するIBM LinuxONEサーバー上でホストされるDACSプラットフォームが開発されることになった。また、このハードウェアプラットフォームでは、IBMの「Crypto Express 6S」(CEX6S)というハードウェアセキュリティモジュール(HSM)も活用されている。
IBMとCanonicalは、証券取引業務に関するソリューションを手がけるフランスの大手ソフトウェア企業SLIB、スイスのデジタル資産企業Phoenix Systemsなどとも協力関係にある。つまりIBMはRed Hatを買収したが、今後も他のLinuxパートナーと提携し、顧客のニーズに最善の対応をしていくのは疑問の余地がない。IBMによるRed Hatの買収は普通の買収ではないことがさらに明確になったようだ。
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。