転換期にある人事制度--ピープルアナリティクスで“より確かな人事” - (page 2)

阿久津良和

2019-11-01 06:45

 心理学者のAbraham Maslow氏が提唱した「自己実現理論(俗称: マズローの欲求5段階説)」はあまりにも有名だが、Maslow氏は亡くなる直前、6段階目に「自己超越欲求」の存在を認識。これは「自分の限界を超えた時に喜びを感じる=日々の成長を意味し、今後は自己超越欲求を満たす市場になる」(岩本氏)

 人々を変える“トランス(Transformative: 変形的)”テックを主眼に置いたテクノロジーやサービスの開発が世界中で始まっていると現状を紹介しつつ、岩本氏は「よく『AIが人の仕事を奪う』と言われるが、人はまだまだ進化する」と説明。その裏付けとして、産業技術総合研究所の人間拡張研究センターの取り組みを紹介した。

 「これまでは道徳や宗教だったが、データ検証で科学的に成長させることが可能になる。企業マネジメントも同じく、個々の従業員をいかに成長させるかが、組織変革の鍵」(岩本氏)

企業のスタイルに見合ったイノベーション人材モデル

 パーソル総合研究所の佐々木氏は「これまでの人事は“記憶・勘・経験(オールド3K)”に基づく『なんとなくの人事』だった。これからの人事は“記録・客観性・傾向値(ニュー3K)”に基づく『より確かな人事』が求められる」と語った。これまで家族的・終身雇用で勤め上げることを前提とした人事制度は転換期を迎えていると強調する。

パーソル総合研究所 コンサルティング事業本部長 佐々木聡氏
パーソル総合研究所 コンサルティング事業本部長 佐々木聡氏

 佐々木氏はピープルアナリティクスを3段階のレベルに分類し、レベル1は年齢や職歴、活動評価を指す「属性・勤怠・評価」、レベル2は従業員調査などを通じた結果を含めた「サーベイ・各種履歴」、レベル3は顔の表情や脈拍などセンサーを通じたデータを活用する「センサーログ」を採用から労務管理まで幅広く活用することを提唱した。

 だが、実際には「データの壁がある」(佐々木氏)という。「マーケティング部門や営業部門は膨大なデータがあるものの、人事組織のデータは多くない」(佐々木氏)と自身の経験をつまびらかにした。

 佐々木氏はパーソル・ホールディングスが実際に取り組んだ事例として、某人材サービス業(A社)におけるイノベーション人材の発掘と育成配置プロジェクトの内容を「(日本企業のHRテックで)一番遅れているのが異動や配置。ピープルアナリティクスの生かしどころだ」と解説した。

 A社はイノベーション人材として、0から1を創造できる「What人材」、1から10へスケールできる「How人材」を仮説として定義。人材評価と面談をしてみると約1600人中What人材は32人、How人材は40人を検出した。

 そして、各人材度をロジスティック回帰分析で数値を設定して、社内人材を人材度の高い順に並べて、人材候補リストを作成。その後イノベーション人材モデルに近い人材を選抜し、しかるべき部署や役割に移動させた。

 佐々木氏は「(一連のプログラムを)内定段階で受けてもらい、入社時の配属先にも活用している。ただ、A社も2018年から始めたばかりで、結果に表れるのは数年後。(HRテックは)できることから始める。データがあれば取り、なければ取りに行くという地道な作業だ」と取り組みの概要を解説した。

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