海外コメンタリー

中国でブロックチェーン推進、習近平主席が呼びかけ--次なる展開は?

Forrester Research (Special to ZDNET.com) 翻訳校正: 石橋啓一郎

2019-11-20 06:30

 中華人民共和国の習近平主席は現地時間10月24日、中国はブロックチェーン技術がもたらすチャンスをつかむべきだと呼びかけた。同氏はさらに、「方向性を定め、投資を増やし、いくつかの中核的な技術に力を集中して、ブロックチェーン技術と産業のイノベーションの発展を加速する」べきだと語った。

 筆者は以前から中国のブロックチェーン業界を追いかけており、定期的にこの領域の主要なプレイヤーから話を聞いている。筆者は、中国では今後1~2年間で以下のようなことが起きると考えている。

  • 企業のブロックチェーン導入が大きく加速する。中国企業のブロックチェーンプロジェクトにとって最大の壁は、試験導入や概念実証の段階から、大規模展開に移行することだ。明確な経済的価値や投資利益率(ROI)が見えない限り、企業はブロックチェーンを利用したソリューションの導入を避けようとする。しかし今や、ブロックチェーン技術は指導部からの明確なお墨付きというメリットを得た。その結果、政府機関や国有企業はブロックチェーン技術への投資を増やし、中国国内のブロックチェーンコンソーシアムで大きな役割を果たすことになるだろう。例えば、中国の国家電網公司は8月に、電力IoTアプリケーションを開発するために、ブロックチェーンを扱う子会社を設立していると報じられた。中国では規制が資本市場に及ぼす影響が大きいため、今回の発言を受けて、株式市場でブロックチェーン企業に対する思惑買いが起きる可能性もある。
  • 2020年までに公式のデジタル元が発行される。Facebookの「Libra」を発行しようとする試みは、中国の中央銀行である中国人民銀行のデジタル通貨発行計画を加速する触媒として働いた。中国人民銀行は、中国のデジタル通貨に関して中心的かつ唯一の役割を果たすようになる可能性が高い。10月末に制定された暗号分野を規制する新法「暗号法」をはじめとする最近の発表や、中国人民銀行による人材雇用の加速を踏まえれば、中国政府によるデジタル通貨の発行は遅くとも2020年中には起きると筆者は予想する。
  • 銀行業務がブロックチェーンのもたらすイノベーションの最前線になる。習氏は演説の中で、ブロックチェーンの用途の例として、中小企業への融資業務、銀行取引のリスク管理、コンプライアンスの確保などを具体的に挙げた。中国の最高指導部からの指令は、メガバンクのバックオフィス業務のデジタル変革を加速させ、業務効率が改善されるだろう。銀行は、ブロックチェーンを利用したソリューションを利用することで、中小企業への融資業務のコストを下げ、金融包摂を現実的で利益を出せる取り組みにすることができる。中国の主要なネット銀行であるWeBankはすでに、協調融資の際のリコンサイル作業を効率化するために、ブロックチェーンを利用したソリューションを導入している。
  • 深センが中国におけるブロックチェーンイノベーションの前進に大きな役割を果たす。中国の中央政府は8月18日に、深センを「国際的な影響力を持つイノベーション、起業家精神、創造性のハブ」にする方針を表明する文書を発表した。深センには、中央政府からの支援に加えて、香港との距離が近いという地理的なメリットもある。また深センは、中国平安保険グループや招商銀行、WeBank、テンセント、華為技術(ファーウェイ)などをはじめとする、中国を代表する多数のIT企業やフィンテック企業を生み出した土地でもある。デジタルイノベーションを先導するこれらの企業は、すでにブロックチェーンの分野に多額の投資を行っており、中国平安保険の子会社OneConnectのブロックチェーンを使用した国際貿易金融プラットフォームなど、いくつかの利用事例を商用化している。これらの大手デジタル企業は、インキュベーションを行うブロックチェーンプロジェクトの数を増やすだろう。

 習近平主席がブロックチェーンの利用推進を指示したことは、中国政府や関係機関が、新技術のトレンドを非常に速いペースで取り込んでいることを示している。中国は、人工知能(AI)に続いて、ブロックチェーン技術の分野でも大きな野心を抱いていると考えるべきだ。

 本稿はForrester ResearchのアナリストMeng LiuとバイスプレジデントでリサーチディレクターFrederic Gironが執筆した。

この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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