NECは12月20日、スーパーコンピューターを活用したアニーリングマシンによる共創サービスの提供を2020年度第1四半期(4~6月)に開始すると発表。量子コンピューティング領域に本格参入し、2023年をめどに量子アニーリングマシンの実用化を目指すとした。
会見の冒頭、取締役執行役員常務でCTO(最高技術責任者)の西原基夫氏は、量子コンピューターを提供するD-Wave Systemsとの協業について触れた。同社は1999年に創業し、世界で初めて商用の量子コンピューターを開発・販売する企業。現在は世界の大学機関と連携しながら200以上のアプリケーションを試行利用している。こうした業界の主導的企業と協業することで、ユーザーニーズの把握やサービスの提供体制を強化し、ソフトウェアとアプリケーションの開発を加速させる狙いがあるとした。

NEC 取締役執行役員常務 兼 CTOの西原基夫氏
今回発表された共創サービスでは、アニーリングマシンを実証環境として用意し、技術の確認から実証企画、検証、評価・運用まで、従来型のコンピューターでは計算が困難だった“組み合わせ最適化問題”の解決を目指す。実証環境では、同社が新たに開発した“シミュレーテッド・アニーリング(SA)マシン”の活用が可能。これは、アニーリング処理に適した独自開発のアルゴリズムを組み込んだソフトウェアと、ベクトル型スーパーコンピューター「SX-Aurora TSUBASA」を組み合わせたものになる。西原氏によると、従来のSAシステムと比べて300倍以上高速に計算でき、10万量子ビット相当の大規模な組合せ最適化問題に対応可能だという。

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量子アニーリングマシンの研究については、1999年に超電導個体素子を用いた量子ビットの動作実証に成功して以来、量子ビットや量子状態を制御するデバイス・回路の研究を継続してきたと説明。現在は、4量子ビットを基本単位とした基本量子セルの動作検証を進めている。これは、基本量子セルの繰り返し配置により全結合での多ビット化へとつながり、スケールアウトへの重要な一歩になるという。

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また、2020年1月に「量子コンピューティング推進室」を新設することも明らかにした。顧客との共同実証を通じた用途開発と技術開発を推進し、人工知能(AI)や既存技術を用いて顧客の抱える課題にハイブリッドに対応する人材を育成していく。20人体制でスタートし、金融や創薬、物流、大規模社会システム運用などを重点領域とする。

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西原氏は「単一のコンピューティング技術で全ての問題を解決することは困難」とし、最適なコンピューティング技術を“ハイブリッド方式”で用いて適切に課題を解くことが重要だとした。例えば、津波発生時の最適な避難経路を算出するには、スーパーコンピューターで津波被害を事前にシミュレーションし、量子コンピューターではリアルタイムで最適な避難経路を算出する。加えて、避難者などの群衆行動を検知するには、GPU(Graphics Processing Unit)を用いた画像処理が有用になる。
量子アニーリングマシンとシミュレーテッドアニーリングマシンについても、適材適所での活用が必要と西原氏は話す。量子アニーリングマシンは性能は高いものの拡張性が低いため、よりリアルタイム性が求められる領域、シミュレーテッドアニーリングマシンは性能で劣るが拡張性があるため、より大きな規模が必要な領域が適しているという。なお、量子アニーリングマシンについては「2023年の実用化を目指している」とした。