第4回ではローコード開発基盤「OutSystems」の導入事例を紹介した。今回は国内でよく知られているローコード開発ツール「Web Performer(ウェブパフォーマー)」と「GeneXus(ジェネクサス)」の導入事例を取り上げる。
グローバルな保険・金融サービス事業を展開する、三井住友海上火災保険の場合
まず紹介するのは、Web Performerの導入により、アジャイル開発手法でユーザー発想のシステムをスピード構築することに成功した、三井住友海上火災保険の事例だ。
ビジネス部門がアジャイルな開発力を持つことにより、最適なウェブシステムをスピーディーに構築。新たな発想から多彩なシステムが次々に誕生している。最初から100点を目指すのではなく、70点からスタートして使いながら最適化を目指すという手法は、他部門からも注目を集めている。
営業企画部自らが開発する必要性
顧客や代理店のニーズを生かしたシステムの提供を目的として、営業企画部内に営業IT推進室が創設された。営業企画・推進部門に加え、事務・システム部門などが統合されて発足したことから、経歴やスキルが異なる多彩なメンバーが集まっているのが強みだ。営業企画部 営業IT推進室の使命は、代理店・営業のビジネスニーズをITでけん引すること。システムの提供遅れは機会損失に直結するという認識からスピードを重視した。三井住友海上火災保険 営業企画部 営業IT推進室 課長の馬頭陽介氏に、営業企画部自らが開発するに至った経緯について聞いた。
「われわれは、常に営業第一の目線で『サービス向上』に主眼を置き、課題や需要があればそこにスピード感を持って最適なシステムを提案・導入・活用してきた。しかし、既存システムの組み合わせでは限界があり、個別ニーズにも応えられる体制が競争力・生産性向上の実現に不可欠と判断。室内に開発ユニットを立ち上げた」
開発ユニットは、発足当初よりアジャイルによる開発スタイルを導入し、システム構築には簡易開発ツールとして「Microsoft Excel」のマクロを活用してきた。Excelのマクロでウェブシステムを自動制御し、代理店、営業の手作業を効率化するシステム群は「ワンクリックツール」と名付けられ大変好評だった。しかし、営業からの要望がさらに増加・多様化してくるとExcelでの情報管理・共有での対応に限界を感じ、ウェブシステムを検討するようになる。ウェブシステムの開発には、新たな開発ツールの導入に加えて市販のパッケージやクラウドも検討した。
「条件として重要視していたことは、これまで培ってきたアジャイルによるスピード開発を推進できること、Excelマクロ機能の知識でも理解できること、そしてコストメリットが高いこと。その条件を満たしたのが Web Performerだった」

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高度な開発力を獲得したビジネス部門がスピード構築するユーザー発想のシステム
システムの開発に当たって最初から100点を目指すのではなく、70点からスタートして使いながら最適化を目指す方針に決めた。
「保険商品のお客さまや代理店向けのシステムなどは最初から100点を目指し、入念な検討が不可欠だが、私たちが内製開発する社内ウェブシステムでは違う。できないことにこだわってそれを解決することに手こずるのではなく、まずは70点でいいのでスピード感を持ってリリースすることを重視している」
Excelのマクロであればとりあえず作り、ユーザーに見せてすぐ直すことができる。Web Performerがあれば、ウェブシステムでも同じことができる。まずは1~2時間のミーティングで要望概要やイメージを書き出し、ユーザーと認識を合わせる。それをもとに作成した画面をユーザーに触ってもらい、さらに細かい要望やニーズを引き出してから、ビジネスプロセスを使い機能を載せていく。
「こうした手順を可能にするWeb Performerは、アジャイル開発の流れにマッチするツールだ。スピードを優先する中でも、要望を取り入れて作り込んでいく、失敗を恐れない開発ができた」
もちろん、ミーティングの中で細かい要望は出てくるし、開発する側も作り込みたくなってくるが、日程を優先するために一部の要望はリリース後に対応することもある。
Web Performerはリリース後の修正も容易なので、最大限の要望に応えることができる。この開発スタイルなら、設計書や計画書などの文書作成も簡略化できるし、評価も単体テストや結合テストを経ずにいきなり総合テストを実施できるなど、時間とコスト面で大きなメリットが生まれる。
「1つのシステムを1~2人で開発したが、負担が過大ということはなく、むしろやりやすいくらいだった。生成されるソースコードに属人性がないので、開発担当者が変更になっても容易に対応できる。アジャイル開発の欠点を指摘する声も聞くが、Web Performerによるわれわれの開発では欠点を感じていない。開発の遅れによる機会損失をなくすためにもスピードは重要。システムは稼働した段階で陳腐化が始まるから、いかに短期間で活用してもらうかを重視する私たちには、アジャイル開発しかない」
Web Performerを導入して1年で24システムをリリース、6年経過する今では合計87システムまで増加している。ビジネス部門自らここまで開発しているのも驚きだ。営業部門のニーズに応えたシステムが短期間に実現することから、要望はさらに多くなっている。
例えば、Web Performerの導入初期に「ワンクリックツール目安箱」というシステムを作り、ワンクリックツールの開発要望を募った。何か実現してもらいたいワンクリックツールがあれば、その概要を投稿。投稿に共感した人は「いいね」を投票する。より多くの「いいね」を集めた開発要望から順に開発着手しようというわけだ。

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これは営業企画部の中の開発ユニットだからこそ生まれた発想だ。営業企画部にとってその時点で最も必要とされているシステムが実現されるわけで、優先度の決定から形になるまでを全員で共有でき、業務の生産性向上に向けてシステム化が進んでいるという認識と期待感が高まっている。
開発されたシステムの活用度の高さは客観的にも明らかだ。営業が必要としているものが、短期間で実現されたという実感が社内に広がり、さまざまな部門から「こんなものは作れないか」と相談が来るようになった。Web Performerの詳細を知らない人も、これを使って開発すれば何かができると期待しているようだ。
「開発スピードに対する要求も高くなり、以前は考えられなかったことだが『今月中にリリースできない?』などと聞かれることもある」
最後に、馬頭氏に今後の展望について聞いた。
「今までは営業業務が主なテーマだったが、他部門の生産性向上に貢献するツールも手掛けていきたい。三井住友海上のビジネス部門や、ニーズに応じてMS&ADインシュアランスグループの各社にも、Web Performer を使ったアジャイル開発のノウハウを伝えられればと考えている。ビジネス部門で開発していく場合、サーバーをどうするかも課題になる。クラウド活用など、インフラ面での取り組みも今後の課題になりそうだ。(Web Performerを開発する)キヤノンITソリューションズには、さらなる製品の機能アップと当社以外のWeb Performer技術者との情報交換の活性化を期待している」