グローバル建設機械メーカー、日立建機の場合
これまで3回にわたり、ローコード開発基盤の普及に携わる立場から、従来のシステム開発との違いや活用のメリットなどについて解説してきた。しかし想像と現実にはギャップがつきものだ。実際にどれほどの導入効果が見込めるのか、実感がつかめない読者もおられるだろう。
そこで今回から3回にわけて、実際にローコード開発を自社システムの開発・運用プロセスに導入し、大きな成果を上げた企業の取り組みを紹介していく。
最初に紹介するのは、ローコード開発基盤「OutSystems(アウトシステムズ)」の導入によって、自社生産管理システムの開発・運用コストを削減し、開発効率を大幅に向上させた日立建機の事例になる。
日立建機は、60年以上にわたり安全性、信頼性、耐久性の高い製品群を開発してきた総合建設機械メーカー。日本をはじめアジア・大洋州、アフリカ、欧州・ロシア・中東、米州諸国に、建設機械のみならず生産性や安全性向上に寄与する各種IT/IoTソリューションを提供している。
試行錯誤の末にたどり着いた「システム内製化」という選択
1990年代後半に生産体制のグローバル化に乗り出した日立建機。早期に生産拠点の海外進出は実現したものの、グループ会社全体で標準化された生産管理を確立するまでには多くの時間を要したと、日立建機ITガバナンス推進部部長の服部秀郎氏は振り返る。
「日立建機グループの発展には、同一システムによる標準化された生産管理の確立が不可欠。そこで市販のパッケージシステムをベースに生産管理システムの開発に着手し、2007年に第1世代のシステムをリリースした」
むろん、生産プロセスの標準化からシステムの利用を定着させるまでには、それなりの苦労があった。しかし部品の調達から生産、在庫、販売の管理に加え、経理処理までの流れを標準化したことで、同社の生産管理体制はより一層効率的になった。
だがシステムの展開が一巡して安心したのも束の間、服部氏は新たな課題に頭を悩ませることになる。導入から数年のうちに、ソフトウェアのライセンス料やサポート料の負担が無視できないほどの多額に及んだからだ。
「ソフトウェアのサポートには期限があり、定期的なアップデートとリプレースが必要になる。そのたびに多額な支出を強いられるため、中小規模の工場の中には展開できないケースもあった。しかもそれだけの支出を許容しても、顧客であるわれわれの手元には一切、技術的知見は残らない。そんな点にも問題を感じるようになった」
オフショア開発も試したが思うような効果が出なかったと服部氏は言う。それまでの開発プロセスよりも「登場人物」が増えた結果、「伝言ゲーム」のような非効率なコミュニケーションが生まれ、日本側の担当者が仕様の検収と修正依頼に忙殺されるようになってしまったのだ。
「開発コストが安く済むオフショア開発は割り切って使う分には構わないが、一定水準以上の品質を維持しようと思えば、発注側も多大な労力を割かねばならない。次世代のシステムでは、これらの問題を解決しなければならないのは明白だった」
既に同社の生産管理システムは改良を重ね第2世代に入っていたが、これらの課題を第3世代に持ち越すわけにはいかない。そこで服部氏は、数ある選択肢の中からシステムの内製化を検討し始めることになる。
日立建機が抱えていた課題
- 約5年ごとのバージョンアップ、OSなどの刷新、維持運用費が高額に及んでいた
- 高額なライセンス料、サポート料を支払っても社内に技術的知見が残らない
- オフショア開発など、仕様理解や品質管理に膨大な手間と時間を要していた