まず、従業員の声に耳を傾ける企業では、従業員エンゲージメントが高めになるという。従業員の意見や提案などを収集する仕組みである“フィードバックプログラム”を設けている企業では、エンゲージメントスコア(エンゲージメントのレベル)が44%となり、設けていない企業の31%に比べて10ポイント以上高くなっている。
耳を傾けるという姿勢を見せることで、従業員は「ここで頑張ろう」というやる気を持つことになるという。
特に、企業においてさまざまな変革が進んでいる場合、フィードバックを求める頻度が四半期に1度以上だと従業員のエンゲージメントスコアは58%となり、年に1~2回という頻度の40%に比べて高くなる。
市川氏は、従業員の声を聞くことを求めつつも、「1年に1回や2回ということではなく、もう少し頻度が高く、職場での従業員ライフサイクルのタッチポイントにおいて声を集めることに意味がある」と述べる。
とはいえ、フィードバックに対してアクションをとらなければ、従業員を失望させるだけ、というのが2番目のトレンドとなる。
「従業員の声を聞いていればいいのかというと、当然ながらそうではない」と市川氏。1番目のトレンドで見たように、従業員に対してフィードバックを求めること、そして、その頻度がエンゲージメントスコアに影響する。だが、さらに、「会社がそのフィードバックをもとに行動を起こしている」と従業員が感じているか否かによって、エンゲージメントスコアはより大きく異なるという。
会社が社員のフィードバックを非常にうまく役立てていると回答した従業員のエンゲージメントスコアは71%であるのに比べ、そうではないと回答した従業員のエンゲージメントスコアは30%にとどまる。
会社としては、すべてのフィードバックに対応する必要はない。だが、できること、できないことを明確にしながら、「集めた皆さんの声に基づいて、こういうことをすることに決めた」とアクションを確実に実行する必要があると市川氏は述べる。
3番目のトレンドとしては、定着率の向上における、マネージャーの育成と成長機会の拡充の必要性だ。
今回の調査において日本では、現在の職場にとどまろうと考えている期間について、回答者の11%が1年未満とし、21%が2年未満とした。
これは企業にとって、2年ごとに従業員の約3分の1が入れ替わることになり、人材の採用と育成というコストが発生し続けることを意味する。また、採用した人材が戦力になるまで時間を必要とすることから、企業はそれまで体力を維持することも求められる。このことから、定着率の向上が課題となる。
エンゲージメントしている従業員は、会社を簡単に辞めない傾向がある。これは、自分の会社に誇りを持ち、「ここで頑張る」と思っているためだ。
前述のエンゲージメントを高める要因において、キャリア開発を支援してくれるマネージャーの存在と「自分がこの会社で成長できる」と思わせてくれる研修機会の提供に着目すると、マネージャーが従業員のキャリア開発をしっかり支援し、職場の問題解決に注力すれば、エンゲージメントにもプラス効果が期待できる。
そのためには、人事部の役割が今後さらに重要になると市川氏。個々の従業員が能力を十分発揮できる職場にするための人事施策を検討、実行しつつ、優れたマネージャーを育成することが不可欠と考えられるためだ。
Qualtricsは、従業員に加えて顧客、製品、ブランドという4つの側面の体験(エクスペリエンス)を捉えて製品を展開しているが、市川氏は、先に来るのは従業員エクスペリエンスと述べる。「不満を持って、『やってられない』と思っている従業員が良いサービスを顧客に提供できるわけない。従業員ファーストという考えを持っている企業も増えてきている」(市川氏)
今回の調査は、現在雇用されている18歳以上の人を対象に18日間で実施され、1万3551人(フルタイム従業員84%、パートタイム従業員16%)から回答が寄せられた。母集団(調査対象者全員)に対して回答率は30.6%、サンプリング誤差は信頼水準95%で±2ポイントとなっている。全回答のうち500件は日本から収集された。回答者の国と地域の内訳は、米国、カナダ、英国、オーストラリア/ニュージーランド、中東、ドイツ、フランス、シンガポール、日本、東ヨーロッパ、北ヨーロッパ、ベネルクス3国(ベルギー、オランダ、ルクセンブルク)、マレーシア、タイ、インド、韓国、香港となっている。