10年以内に到達--次世代HPC“エクサスケール”は何をもたらすのか

Sumir Bhatia (Lenovo)

2020-03-31 06:30

 これまでの歴史を振り返ると、科学的偉業の達成に向けた、いわゆる“友好的な”争いが数多く繰り広げられ、その多くは人類を著しく進化させてきました。

 1960年代、ソ連と米国は、初の有人宇宙飛行から初の人類月面着陸まで数多くの天文学的偉業の達成で競い合いました。近年は、新たな国々もこの中に加わり、中国が月の裏側への初着陸に成功したほか、オーストラリアは「光の誕生」を特定すべく、宇宙初の星明かりの理解と発見に向けた競争をリードしています。現在は火星への有人飛行が議題に上るなど、世界の宇宙開発競争は続いています。

 それと同様に、ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)の分野に馴染みのある方であれば、各国政府や研究機関が現在、エクサスケールコンピューティングという魅力的な偉業の達成に向け、しのぎを削っていることをご存知でしょう。

 エクサスケールとは、最初のペタスケールコンピューターの1000倍に相当する、毎秒100京(=10億×10億=1018)の演算を遂行可能なシステムのことです。エクサスケールマシンは、人間の脳に近い処理能力を持ち、ニューラルネットワークなどの人工知能(AI)の進化を潜在的にサポートするものです。

 この技術は驚愕に値するものです。ですが、HPCはすでに従来型コンピューターを大きく上回るレベルで、今日の世界の非常に大きな問題に取り組んでおり、不可欠な存在となっています。

 それでは、HPCの機能が現代の世界を代表する3つの重要問題の解決にいかに役立っているか、そして、テクノロジーの発展に伴い、今後どのような事態が予想されるのかを見てみましょう。

1.データ処理で気候変動に対応

 シンガポールの「National Day Rally 2019」で首相Lee Hsien Loong氏は気候変動について「人類の直面する最も重大な問題の1つである」とコメントしました。われわれはすでに、温暖化がどのように地球環境に影響を与えたのかを実感していますが、ご存知の通り、気候変動には夏の暑さや不快感だけにとどまらない、より憂慮すべき事態が発生しています。

 近年、気候変動によって異常気象が常態化していることは、大規模な山火事、そしてさらにすさまじい雷雨までもが発生しているオーストラリアを見れば明らかです。夏のオーストラリアで頻発する火災シーズンは、過去に比べて現在では2カ月から4カ月も長くなっています。

 気候の予測が困難なことは広く知られており、予測の正確性は、処理能力と利用可能なデータ量の両方に依存します。そこでHPCの出番です。

 マレーシア気象局(Malaysian Meteorological Department:MMD)は、天気を予報するだけでなく、台風やモンスーン、地震、津波の警報など、悪条件時の気象警告も発表しています。マレーシアの場合、局地的に竜巻になるほど強力な対流性暴風雨が起こることも一般的なため、MMDは、比較的小規模な気象現象であっても、特定することが重要であると考えています。

 気候の予測で高い精度を得るには、大規模な演算能力が必要です。同局の導入したHPCクラスターは、データの処理と可視化を通じ、1kmの解像度で7日間の包括的に予測するようにしており、より正確な警告をいち早く発することが可能です。

 実際のところ、この世界では、演算能力の向上とエクサスケールに向けた進化により、今後は気象予測の枠組みにとどまらず、街の通りのひとつひとつレベルという細かいスケールにまで着目できるようになると期待されます。こうした機能は、都市の一部が地盤沈下している、ジャカルタのような大都市では不可欠と考えられます。

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