現場に丸投げするトップはダメ--「行動規範」と「仕事の役割」の定義が重要 - (page 2)

各務茂雄 (KADOKAWA Connected)

2020-05-12 07:15

仕事の役割を明確にする

 行動規範が明確になったら、次のプロセスは“仕事の役割を明確にする”ことです。

 私の経験上、DXに限らずプロジェクトを失敗させる組織には共通点があります。それは、経営層が「組織」や「バーチャルチーム」だけを作り、実際の進捗などは現場に押し付け、経営層は報告を聞くだけという組織です。これではうまくいきません。なぜなら、「誰が、どの仕事をするのか」が不明瞭で、現場が混乱するからです。

 そもそも、「このポジションの仕事内容は○○である」ということが定義されていなければ、「誰が、何をやるか」は決められません。こうした組織は悲惨です。大抵の場合、権利だけを主張し、責任を果たさない人が出てきます。さらに言えば、他メンバーのアウトプットを自分の功績のように吹聴する「“アレオレ”詐欺師」も登場します。

 これを阻止するためには、社長や経営層が中心となって「仕事の役割」を明確化するのです。これは「役割(ロール)」という考え方に基づいて決めます。そして各部署のトップが、「定義した仕事を(他部署が)しているか」をお互いに確認し合うのです。

 ICT業界には様々なロールがありますが、私たちは「ストラテジスト」「サービスオーナー」「スクラムマスター」「アーキテクト」「コンサルタント」「エンジニア」「オペレーター」などの職種を活用しています。そして、これら職種のロールをきちんと定義したうえで、プロジェクトごとに必要なロールを集約してチームを作ります。なお、ロールは「1人で1つ」ではなく、1人で複数ロールをやることもあります。

出典:KADOKAWA Connected
出典:KADOKAWA Connected

 ロールをきちんと定義するためには、現在の仕事をすべて棚卸しし、分割する必要があります。この時に重要なのは、組織内の各部署を“横串”でつなぎ、横断的にロールを決めるのです。そのうえで、各職種の従業員が自律的に仕事できる「変化に強いチーム」を、サービスごとに作るのです。これを私は「サービス型チーム」と呼んでいます。

 サービス型チームを設計する場合には、下記の内容が明確である必要があります。つまり、「どのようなサービス」を「誰に向けて提供」し、「顧客が得られる価値とその対価」がどの程度なのかを明確に可視化するのです。サービスを設計する際に必ず下記の9つの内容を「事前に」定義します。

  • サービス概要
  • 対象顧客
  • 顧客のペインとゲイン
  • 提供するサービスの詳細
  • サービス(価値)のサービスレベル
  • サービスの費用(内部配賦でもOK)
  • ロードマップ
  • 連絡先
  • FAQ
  • ロールの可視化は従業員のキャリアパスに有効

     各職種のロールを定義したら、次は各サービスに必要なロールをアサインしていきます。

     下の図はデジタルサービスを作る際のロールのアサインリストです。

    出典:KADOKAWA Connected
    出典:KADOKAWA Connected

     横列に職種、縦列に各サービスを決めます。そして、このマスにそれぞれのスキルもった従業員の名前を入れていくのです。これを見れば、どのサービスに、どの職種、ロールが足りないのかが一目でわかります。なお、図ではトップライン担当と投資対効果(ROI)担当が分かれていますが、社内向けのサービスの場合は右側のみでもOKです。

     私の過去の経験から言うと、全部のマスに名前が埋まることはほぼありません。その場合、そのマスを赤や黄色にしておくのです。そうすると「どのロールが不足しているのか」が一目瞭然です。こうすれば、次のステップとして「その職種にあったスキルの人材を採用する」といった判断をすることができます。場合によっては、人手が足りないのでそのサービスを「今は」やらないという決断もします。

     ロールがはっきりしていれば、人材採用や育成でミスマッチが起こることはありません。さらに、ロールごとに給与のレンジが決まっているので、不公平感もありません。「この役職だからいくら」というような日本的な曖昧さがなくなり、役職が既得権益とならなくなります。

     職種に必要なロールを明確にするメリットは、「その職種に就くためにはどのようなスキルが必要なのか」がわかることです。そして足りない部分があれば、そのスキルを身につける努力をすれよいのです。一方、「昇級をしないで自分らしく働きたい」と考える人は、今持っているスキルを磨けばよいのです。わかりやすく言うと、「頑張る人は頑張る。一定レベルでよい人は自分のペースで働く」ことができることです。時には、プライベートの事情で、ロールを下げて仕事をすることも可能になります。

     誤解のないように付け加えますと、「自分のペースで働く」ことは「マニュアル通りにルーチンワークをする」ではありません。たとえば、一般的にルーチンワークをするイメージの強いオペレータであっても、積極的に新技術に触れ、業務の自動化や作業効率化の施策に取り組んでもらいます。そうすれば、自然と「業界の平均を超えるプロフェッショナル」になれるのです。

     余談ですが、KADOKAWA Connectedでは、社員教育を最重要事項と位置づけています。社員140人に対し、年間数千万円の教育費を計上しています。「そのぶんを給料として支給しないのか」と訊かれることもありますが、同じ金額を給料で支払うよりも、教育費として従業員に投資したほうが、スキルの向上や会社へのコミットメント、その後のキャリアパスに役立つと考えています。こうした人事制度については、改めて紹介しましょう。

    (第3回は5月下旬にて掲載予定)

    各務 茂雄(かがみ しげお)
    KADOKAWA Connected 代表取締役社長
    情報経営イノベーション専門職大学 准教授

    EMC CorporationやVMware、マイクロソフトなどでエンジニアやプロダクトマネージャー、クラウド技術部部長などを歴任。楽天ではプロダクトマネージャーとして楽天優勝セールを支えるインフラの構築、アマゾン ウェブ サービス ジャパンではコンサルティングチームの責任者として顧客企業のクラウド導入・移行支援を統括した。ドワンゴではICTサービス本部長として、同社のインフラ改革を1年で実現した実績を持つ。

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