今のままの文書管理で起こり得る問題--米裁判での敗訴、テレワークの不完全化

難波孝 (クニエ)

2020-06-15 07:00

 第1回は紙文書について、そして第2回は文書管理システムについて筆者の経験をもとに考察を述べてきた。しかし恐らく、読者の中には「紙文書でしっかり管理ができていれば問題ないのではないか」また、「文書の複製を作って自分の近く(紙は机の引き出し、電子文書はファイルサーバー内の個人フォルダなど)に置いておくのは業務効率化だ」という人もいるだろう。

 しかし、結論から言えば答えは「ノー」だ。

 今回は、その理由を交えた現状の文書管理に関するリスクについて解説する。

1.Discovery(証拠開示制度)

 米国における民事訴訟手続きの一つとしてDiscovery(証拠開示制度)がある。これは陪審員審理、裁判官審理の前に当事者同士が、利益不利益にかかわらず訴訟に関係がある全ての文書の開示を求められる制度である。近年日本企業の海外進出によって、ある日突然競合他社やユーザーから米国などの諸外国で訴訟を起こされるケースが急増している。

 海外に子会社がない場合も安心してはいられない。販売した部品が海外製品に使用された場合、その部品に不備があるなどで訴訟の対象になる可能性が少なからずあるからだ。

 Discoveryにおける手続きの詳細は専門書に譲るが、ポイントは冒頭申し上げた「全ての文書を開示する(しなければならない)」ことである。

 その開示過程において、現状の文書管理では実際に多くの問題が発生しており、場合によっては多額の制裁金が課せられる場合もある。典型的なリスクを2点紹介しよう。

従業員の各々が自由に紙や電子データの複製をとって管理していたため、全ての対象文書を期日までに見つけることができない

 しつこいようだが、開示対象は全ての文書である。もちろん合理的に原本が証明できれば別だが、通常の場合は複製物であろうがなかろうが関係なく原則開示しなければならない。第2回で解説したように部門ごとに共通認識を持たないまま文書管理システムを乱立させ、勘違いした検索性のもとで管理していると、対象文書を探し出す時間もコストも大幅にかかる。そればかりか、場合によっては期間内に見つけられず、訴訟に負けて多額の賠償金を支払わなければならないこともあり得る。

紙文書の電子化の際に守らなければならないプロトコルを知らずにスキャンしており証拠文書として認められない

訴訟が発生すると期日までに証拠文書を電子データで提出する必要があるため、紙文書は全てスキャンしなければならない。ただでさえ納期が厳しい上に、証拠として採用できるプロトコルにてスキャンを実施しないと、証拠隠しだと疑われかねない。

 例えば、下の図1の通りホチキスで留められた紙文書をスキャンする場合、2枚目をスキャンする際にホチキスを留めたままスキャンすると、左上に写らない箇所ができてしまう。証拠性を考えた場合、「写っていない箇所に何か重要な証拠を隠しているのではないか」という疑義が発生するため、適切なスキャン方法ではない。

図1:法的エビデンスとして認定されない例(出典:クニエ)
図1:法的エビデンスとして認定されない例(出典:クニエ)

 実はDiscoveryにおいては、このようなルールが数多く存在する。ほとんどの日本企業において知られていない事実であるため念押ししておくが、もちろん普段のペーパーレス化においても、証拠性を考えてスキャンをしておかないと、訴訟などの情報開示の際に原本と認識されない。注意が必要である。

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