なぜビジネスパーソンにデータ分析が求められているのか?
2010年代に「21世紀に最もセクシーな職業」ということで注目を集めたデータサイエンティスト。筆者自身も今から7年前の2013年に渡米し、サンフランシスコのとある大学院でデータサイエンスの修士号を取得した。当時、データサイエンティストとは統計学、機械学習といった数理を理解しプログラミング言語を操り、ビジネスの成果を出せる専門家だと教わった。
その後、「AI(人工知能)」がメディアでも注目されたことによって、データの重要性がビジネスパーソンにまで広がり、そして、最近は「デジタルトランスフォーメーション(DX)」で、いよいよ全てのビジネスパーソンにとって、データ分析は必須科目になりつつある。
企業側でも社内で蓄積してきたデータを分析することで、何かビジネスに生かせる知見があるのではと考え、その活用方法を模索している。例えば、ID-POS(個人識別番号付きの販売時点情報管理)データ、ERP(統合基幹業務システム)に蓄積された取引データ、ウェブサイトのログデータなど、見渡せば企業の中にはさまざまなデータがある。さらには、画像認識技術を使うことで、物理空間の情報も簡単にデジタル化できるようになった。
このように、企業内だけでなく、企業外部からデータ化されるものも今後増えてくるため、蓄積されるデータは増え続けることになる。利用できるデータが増えるにつれて、企業内における分析ニーズも増え続けることになり、一部の専門家に頼っている状態では対応し切れなくなるのは明白である。
そのため、現場のビジネスパーソンにも一定の分析スキルを備えてもらい、高度な専門知識を要求されないような分析であれば、自己解決してもらおうと考えるのは自然なことである。企業内における分析人員のリソース配分の観点とDXの流れが相まって、セルフサービスでデータ分析を行う「セルフサービスBI」(ビジネスインテリジェンス)に注目が集まり始めている。
データ分析とはExcelでグラフを描くことではない
いきなりデータ分析をやってみようと思っても、意味のある結果を得ることは実は難しい。ここであえて、「実は」と書いたのは、Excelのピボットテーブルで集計したり、グラフを描いたりしたことがある人は少なくないはずだ。しかし、ビジネスの成果につながったと感じられるような分析結果だと感じられたことは少ないのではないだろうか。
ここで、そもそもデータ分析とは何かを考えてみよう。データ分析とは「データから意思決定に有用な示唆を得る」ことであるといえる。この定義によれば、前提として「何を意思決定するか」が明確になっている必要があり、また、「何が分かれば判断に資するか」を認識できていなくてはならない。
その点で、Excelのピボットテーブルで集計し、グラフを描くことはデータ分析の作業の一部ではあるが、データ分析そのものではない。この点が非常に重要である。Excelに限らずBIツールを使えば、きれいなグラフやダッシュボードを作ることはできるが、そのグラフを見て何かアクションや気付きがなければ意味がない。では、どのようにしたら、アクションにつながるデータ分析ができるのだろうか。
データ分析は「問い」を立てることから始まる
アクションにつながるデータ分析に必要なのは、「問い」と「仮説」である。そもそもデータ分析は何かを知るための行為なので、何か「知りたいこと」があるはずであり、「知りたいこと」の裏を返せば「問い」があるということになる。この「問い」の見極めはデータ分析においては非常に重要で、生産性や分析の成果につながるかは、この「問い」次第であると言っても過言ではない。では、どのように良い問いか、そうでないかを見極めれば良いのだろうか。
例えば、ある家電量販店でマーケティングを担当しているとしよう。社内では「優良顧客」の定義があいまいであり、それ故に定性的な情報と各担当者の主観で「優良顧客」向け施策や、優良顧客へと顧客育成するためのキャンペーンが実行されている状態にあるとする。
まず「問い」を立てるわけだが、いきなり1つの「問い」に絞り込む必要はない。なにしろ「問い」を間違えていたら、その後の分析作業は無駄になってしまう。そのため、ひとまず問いの候補を考えてみることが重要である。
今回のケースは「優良顧客が定義されていない」ということが問題だと捉えれば、真っ先に思い浮かぶのは「そもそも優良顧客の条件とは?」という定義に関する問いであろう。
他にも「優良顧客はどのように自社を認知しているのだろう?」といったマーケティングに直結するような問いもあれば、「顧客はどのようなきっかけで優良顧客になるのか?」といった顧客育成に関する問いも考えられる。このように数多くの「問い」の候補がある中で絞り込まなくてはならない。では、どのように絞り込めば良いのだろうか。
ここで想像力をフルに発揮して、その「問い」を解き終わった状態をイメージしてみよう。解き終わった状態を想像して、得られた分析結果を使って行動に移せそうかを考えてみる。それによって、解くべき「問い」かどうかの見当を付けることができる。
例えば、「そもそも優良顧客の条件とは?」という問いを解き終わったときに得られる答えが「優良顧客とは、1カ月に2回以上購入し年間10万円以上買い物をする顧客」であると想像したとしよう。仮にこの分析結果が分かったとして、何かうれしいことがあるだろうか、と考えるわけである。
その結果、行動に移せるのであれば良い問いであるし、そうでないのであれば手を付けるべき問いでない可能性が高い。一方、「顧客はどのようなきっかけで優良顧客になるのか?」という問いに対して、解き終わったときの分析結果が「購入するカテゴリーが白物家電とPCを購入すると、複数年にわたって5万円以上の購入をしてくれることが多い」といったものだと想像したとする。
この答えを想像し、引っ越しや新生活で顧客になってくれるとその後も定期的に買い物を続けてくれるのではないかというアイデアが思い浮かぶ。このように、マーケティング施策のヒントになるようなアイデアが得られると感じたならば、それは良い問いだということになる。もちろん、状況による部分は多いものの、「問い」を解き終わった状態をイメージすることが「問い」の選定では大事になってくる。