データ分析の落とし穴--数字のウソを見破る技術

第4回:組織全体でデータリテラシーを上げるには

堅田洋資、橋本大佑 (データミックス)

2021-03-23 07:00

何のためにデータを使うのか?

 近年、データの重要性が増していると言われるが、そもそもなぜデータを使う必要があるのだろうか。1つの回答としては、人間の目だけで正確な状況を把握することが困難なほど世の中が複雑化していることが挙げられる。また、技術進歩により、ユーザーのアプリ内での行動ログデータや、EC(電子商取引)サイトにおける購買データなどさまざまなデータが以前よりも手軽に入手できるようになったことも大きく影響しているだろう。

 最近話題となっているデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めるためにもデータは必要である。

そもそもDXとは何か?

 そもそもDXとは何かということを定義しよう。経済産業省が2018年にまとめた「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン」(DX推進ガイドライン)によると、以下のように定義されている。

 「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」

 すなわち、DXとは単にデータを収集したり、社員がデータ活用スキルを身に付けたりするのみにとどまらず、ビジネスモデルを変革し、企業文化そのものを変革する動きなのである。

 ビジネスモデルの変革に関しては、既存事業との関連の大きさ、変化の大きさをそれぞれ軸として見たときに大きく2つのパターンがある。

 1つはデータドリブンな既存業務の効率化や意思決定である。具体的には、今まで人の手で行っていた既存の業務を人工知能(AI)に置き換えて省力化するというものである。例えば、Excelによる売上データ集計作業の自動化や画像認識AIによる来店客数のカウントなどが挙げられる。

 もう1つはAIを活用した新規事業の創出である。具体的には、今まで取り組んでいなかった領域のビジネスにAIを使ったサービスで参入するというものである。例えば、NTTドコモのAIタクシーやトヨタ自動車とNTTによるスマートシティー実現を目指した動きなどが挙げられる。

 ここで重要なのは、既存業務の効率化にしても新規事業の創出にしてもデータが必要となるという点である。

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なぜ組織全体でデータを使う必要があるのか?

 ここまでデータの重要性について述べてきたが、なぜ組織全体でデータを使う必要があるのだろうか。先ほどDXの本当の目的はビジネスモデルの変革であり、企業文化の変革であると述べた。この企業文化の変革とは、複雑かつ不確実な環境に適応していくための、よりスピーディーな意思決定である。

 そのスピーディーな意思決定を行うためには、経営陣が全ての意思決定を行うのではなく、各現場で各人がそれぞれ判断材料となるデータをもとに意思決定できる環境を作るということである。そのためには、組織全体にデータを行き渡らせ、使いこなせるようにしていく必要がある。

データ活用にはビジネス課題が重要

 国内の企業を見渡してみると、データ活用が上手くいっている企業はまだまだ少ないと感じる。データ活用が上手く進まない理由として、ビジネス課題を抱えている事業側とデータ分析を行う分析側の間でコミュニケーションが取れていないことが考えられる。

 例えば、事業側から分析側に対して、売り上げが落ちているから改善したいという課題をデータで解決してほしいという要望が出されたとする。実は、このような曖昧な要望に応えることは難しい。仮に、分析側で試行錯誤してデータ分析を行ったとしても、その結果に事業側が満足できるケースは滅多にない。

 なぜなら、このような課題を解決するためには、まずはビジネス課題を言語化した上で論点を出し、論点に対する仮説を立てて、その仮説を検証するためのアウトプットを定義するというステップが必要だからである。このステップができていないにも関わらずデータ分析を行ってしまうと、無駄な作業となってしまうことが多い。

 このような事業側と分析側におけるコミュニケーションの問題を解消するための役割が、ビジネストランスレーターである。

ビジネストランスレーターとは?

 ビジネストランスレーターとは、事業側と分析側の間に立つ橋渡し役である。翻訳家といった方が分かりやすいかもしれない。ビジネストランスレーターの役割は、ビジネス課題を分析できる課題へと翻訳し、また分析結果を事業側に分かるように翻訳することである。

 このような人材が組織内にいることによって、今まで何となく課題を決めて、何となくデータ分析を行ってきたという状況を打開できると考えられる。では、ビジネストランスレーターを育成するためにはどのようにすればよいのだろうか。

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