新しい「水」としてのデータ

2021年に押さえておきたい8つのアナリティクス業界トレンド

今井浩 (クリックテック・ジャパン)

2021-01-25 07:00

 新型コロナウイルス感染症の世界的流行により社会が急激に変化したことで、企業環境はデジタル化に向かって早急に突き進むこととなりました。これまで単線的に進化していたデジタルにおいて、突如、「デジタル転換」が生じたのです。現在、企業は、十分な情報に基づいた意思決定を促進し、新たなビジネスチャンスをサポートするために、デジタルトランスフォーメーション(DX)を加速させ、意思決定に用いるデータが単に正確で最新のものであるだけでなく、即時のアクセスと理解が可能なものにしようとしています。

 DXを目指す途上にあり、企業および個人のデータに対する態度は変化しつつあります。新型コロナウイルス感染症をきっかけに「デジタル転換」が起きた結果をもとに作成した8つのトレンドを紹介します。

1.アナリティクスに対する全世代的な姿勢の変化:デジタル転換によって、2008年にアジャイルという新しい要件に対応するためにレポート中心のBI(ビジネスインテリジェンス)から分析中心のBIに移行したときと同様の変化を余儀なくされる可能性があります。

 現在、全く新しい要件が出てきており、企業はコロナ危機にこれまでよりもはるかに迅速に対応するだけでなく、将来の未曾有の事態に向けて事前の備えを行っておく必要があります。その結果、全世代のビジネスリーダーたちのアナリティクスをめぐる認識が、これまで以上にビジネス対応のデータを重視する方向へと変わりつつあります。

2.かつてないほど高まる最新かつビジネス対応データの重要性:新型コロナウイルス感染症の流行を通して、予測を行う際に数値が目まぐるしく変化し、計画が中断してしまう可能性があることを学びました。

 しかし、いまだに多くの企業が、このようなアジャイルなビジネスアプローチをサポートするには古すぎるデータに依存しています。これは、機会やリスクの兆しを見極める能力に関わってきます。不透明な時代で企業が生き残るには、機会とリスクの両方を見極めることが欠かせません。

 十分な情報に基づいた素早い意思決定のためのアナリティクスエンジンを設定して、関連性の高い洞察を示すようにするだけでなく、ERP(統合基幹業務システム)、CRM(顧客関係管理)、SaaS(Software-as-a-Service)アプリケーションを問わず、全てのシステムのデータ統合プロセスにおいてリアルタイムでデータがフィードされるようにすべき時期に来ています。

3.「代替」データの取り込みと統合が欠かせないものに:投資会社はこれまで、長年にわたって音声、センチメント、航空写真といった代替データを使い、初期段階で情報を収集し意思決定に活用してきましたが、その他の業界においてもその可能性に対する評価が急速に高まりつつあります。

 今日の不透明なビジネス状況において、代替データをマイニング(採掘)して兆候を早期に察知し、事態を明確に把握した上で意思決定することの価値が、他のセクターでも理解されるようになってきています。

4.SaaSは新しい無二の親友:惰性からなかなか抜け出せない保守的な企業においても、社員と顧客により多くのサービスをリモートで提供するために、「as a service」モデルを受け入れるようになりました。社員が出勤できない場合であっても業務の継続を可能にするために、多くの企業が移行を進めています。

 また、SaaSを導入してクラウドの高度なコンピューティング能力を活用することで、人工知能(AI)を使った効率化を進めている企業もあります。現時点ではSaaSに焦点が当たっているものの、オンプレミスと共存させるには、このシフトがデータの統合と移行のより大きな取り組みの第一歩となることでしょう。

 このことは大きな可能性を秘めている一方で、アプリケーションをSaaS化した場合、クラウドソフトウェアプロセスがデータのロックインを招きかねないことを認識しておく必要があります。

5.ビジネスプロセスの再エンジニアリングが主役に:ビジネスプロセスのモデル化は1990年代から存在しています。しかし、技術発展によって、自動化・最適化のプロセスがどのようなものなのかをマイニングする機会を得ています。

 例えば、プロセスマイニングやロボティックプロセスオートメーション(RPA)などにおいて、組み込み型アナリティクスを統合することで、自動アクションを発動できるインサイトを生み出すプロセスを設定することが可能です。

 リソースが限られている企業の場合、これによってデータの持つ大きな可能性が引き出され、従業員の能力を高め、単純で受け身の意思決定から、アクティブインテリジェンスを実現できるようになります。

6.セルフサービスから自己完結型サービスへの移行:自宅での勤務が広がったことで、企業ではデータインサイトの「セルフサービス」を容易にする魅力的なユーザーインターフェース(UI)がもてはやされるようになっています。

 手動によるセルフサービスを嫌がるユーザーも多く見受けられます。そういったユーザーは、アルゴリズムが自分たちの代わりに仕事をし、ダッシュボードの構築の前にマイクロインサイトとストーリーが明らかになることを期待しています。

 自然言語、高度なビジネスロジック、データカタログを通じて、データに自らが直接アクセスし、クエリーを実行することを望むユーザーも存在します。ますます分散化が進むユーザーは、自己完結型サービスへの移行が進むでしょう。

7.データリテラシーの全国的なニーズ:私たちは、データの爆発的な増加、可視化、公的な議論の場でのデータを使ったストーリーテリングを目にしてきました。職場における意思決定の際の情報提供のみならず、パンデミックを受けての個人としての振る舞いにおいても、データの重要性は増してきています。

 しかし、患者数や接触者追跡に関する政府の発表の中心にデータが置かれる中、人々は自分たちのデータリテラシーの限界に気づき始めています。数値リテラシーの低い人々に不釣り合いに影響を与えるリスクが高まっている中、データリテラシーに関する公教育を充実させ、誤情報に気づけるようにすることの重要性が、これまで以上に高まっています。

 しかし、言うまでもなく、これは一夜にして成し遂げられることではありません。よって、同時にデータに対するマナーを構築し、それに基づき、公共の議論での適切かつ包括的なデータ活用のルールを定めることが必要です。

8.競争、監視、セキュリティの再調整:パンデミックとの戦いの中心にデータがあることを、多くの人が認識しています。政府の対応は国によって違いがあるものの、全てに共通していることが、国内外のデータから得られる情報をもとに対応を決めている点です。

 これにより、ウイルスとその広がり方を理解するために、これまで以上に多くのデータを当局や医療研究者と共有することが市民としての義務だと考える人が増えてきています。しかし、このようなプライバシーへの立ち入りの拡大を許している一方で、長期的な変化を監視し、接触者追跡といったデータプライバシーの立ち入りの拡大がいったいどのくらいの期間許容されるものなのかを知ることも関心の対象となっていくことでしょう。

デジタルファーストの世界

 デジタル転換により、テクノロジーとデータへの依存度がかつてないほど高まっています。正確な情報へのリアルタイムのアクセスは、生活のあらゆる側面において情報をもたらし、2020年のような状況下で企業が生き残るためだけでなく、ウイルスを管理し、最も安全に社会と関わる方法を知るためにも欠かせないものです。

 2021年には、イノベーションを促進し、日々利用するサービスを改善するためのデータ活用において私たちが目にする変化は驚くべきものとなることでしょう。

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