オープンソースになじみのあるほとんどの開発者にとって、このテクノロジーの価値はかなり以前から実証されているはずだ。志を同じくする世界中のプログラマーによって開発された大量のオープンソースコードに対する貢献と、その無償利用の双方が可能になっていることによって、創造性とコミュニティーの連帯感が醸成される。そしてもちろんながら、アイデアの発案から具現化までの道が開かれることで、イノベーションを実現するための時間が大きく短縮される。
しかし、オープンソースについて漠然とした知識しか持っていない多くの人々はたいていの場合、新製品の開発手段や、ビジネスモデルの運営手段としてこのテクノロジーが有効になるとは考えていない。オープンソースの普及活動を行う非営利団体OpenForum Europe(OFE)が最近実施したリサーチによると、こうした認識は欧州連合(EU)に毎年、数千億ユーロ規模の機会損失をもたらしているという。
欧州委員会(EC)の依頼で実施されたこのリサーチでは、オープンソースエコシステムから得られる利点に関する理解が欧州では全般的に不足していることが示されている。欧州の起業家らの眼前には、膨大な量のオープンソースソフトウェアが横たわっているにもかかわらず、事業目的を達成するためにこのテクノロジーを利用している人は多くない状況だ。
オープンソースがもたらす利点の大半は、コストとは無関係だ。それ故に定量化は一筋縄ではいかない。オープンソーステクノロジーの背後にある考え方は、ソースコードを無償にするとともに共有や改変を可能にしたエコシステムを構築することで、開発者がお互いのイノベーションを利用して新たな成果物を構築できるようにするというものだ。
OFEの最高経営責任者(CEO)Sachiko Muto氏は米ZDNetに対して、「オープンソースには、少しばかり直感に反したところがある」と述べ、「無償のものを利用して現実的なビジネスモデルを作り上げ、収益を上げていく方法については、ほとんど理解されていない」と続けた。
OFEのレポートでは、高名な経済学者に経済統計学の立場からオープンソースを語ってもらうことで、このテクノロジーの具体的な影響力に注目してもらおうとしている。オープンソーステクノロジーの性質と、その適用範囲の把握しにくさを考えた場合、これは学術的な課題となり得るはずだ。
このプロジェクトのリーダーとして、イノベーションの経済に造詣が深い専門家であるKnut Blind氏に白羽の矢が立った。また、ハーバード・ビジネス・スクールの助教授であり、企業の生産性や国家の競争力に対するオープンソースソフトウェアの影響に関して類似の研究を実施した経験を持つFrank Nagle氏もプロジェクトに加わった。
研究者らは、EU圏内の個人貢献者数とともに、彼らの総コミット数に着目する一方で、GDP(国内総生産)の伸びだけでなく、新たに立ち上げられた企業の数や、IT関連の仕事に就いている個人の数といった、テクノロジーの進歩を測る上での指標となるさまざまな経済的要素を集約することで成長モデルを作り上げた。