オープンソースの礎を築いた人物の1人であるEric S. Raymond氏は、業界に大きな影響を及ぼした「伽藍とバザール」の中で「優れた(オープンソース)ソフトウェアはすべて、開発者の個人的な悩みの解決から始まっている」と記している。この言葉の中には数多くの真実が詰まっている。ApacheウェブサーバーやMySQL、Linuxといった不可欠なプログラムはそのようにして生み出されており、数え切れないほどの小さなプログラムも同じだ。とは言うものの、通信分野のOpenDaylightやOPNFV、Automotive Grade Linux(AGL)のUnified Code Base(UCB)といった特定分野向けの大規模プログラムの場合、個人的な悩みの解決が開発のきっかけとなった事例はあまりないはずだ。しかし今日では、特定分野の限られた対象に的を絞っている企業によってもオープンソースの手法やソフトウェアは積極的に活用されている。
なぜだろうか?オープンソースは成果を上げている、というのがその答えだ。
そう考えているのは筆者だけではない。McKinsey & Companyが最近公開したレポート「Developer Velocity: How software excellence fuels business performance」(開発者の勢い:ソフトウェアの出来の良さはどのようにビジネスの成功を左右するのか)には、ある特定業界で上位4分の1に入る企業群が挙げた「最大の差別化要因」は「オープンソースの採用」によるユーザーから貢献者へのシフトだと記されている。同レポートのデータによると、上位4分の1の企業群におけるオープンソースの採用によるイノベーションへの影響は、残りの企業群の3倍となっている。言い換えると、成功している企業はオープンソースプログラムを単に利用するだけでなく、自らの業界のオープンソースプロジェクトに積極的に取り組んでいるということだ。
こうした考えは多くのビジネスリーダーらにとって依然として困惑するものとなっている。競合他社も利用できるものに対する積極的な貢献が、どうして市場において自社にメリットをもたらし得るというのだろうか?この種の思考に欠けているのは、故John F. Kennedy大統領が述べた「上げ潮はすべての船を持ち上げる」という考え方に尽きる。われわれがオープンソースによってリソースや作業、専門知識を共有すれば、皆が利益を享受するようになる。しかし、最も利益を享受するのは、オープンソースプロジェクトに積極的に取り組んでいる企業なのだ。
これはばかげた考え方だろうか?現在UNIX(オープンソースの片割れであるLinuxではない)を使っているという人は何人いるだろうか?今やどのような種類のソフトウェアでも、オープンソースが主流を占めているはずだ。また、AmazonやGoogle、IBM、そしてMicrosoftさえも含む大手IT企業に目を向けても(Appleは例外と言えるが)、オープンソースをベースにして開発を進めているか、大々的に活用しているかのいずれかであるはずだ。