働き方改革で人事部の仕事量は増加
1804年創業の清水建設は、国内に89カ所の拠点を持ち、従業員数は1万人超、2019年における連結売上高は1兆6982億円に上る。
同社では働き方改革などを背景、「ITを活用した業務効率の見直し」が全社規模で行われていた。清水建設東京支店人事部に所属する鈴木健斗氏は「建設業界のIT化は、他業界と比較して遅れている部分が多い。建設現場は独自性が強く、支店ごとに業務の進め方が異なる。そのため、全社一括でのIT化推進は難しい」と指摘する。
こうした事情から、業務部門ごとの取り組みが始まった。特に人事部では働き方改革推進の影響で労務関連の管理項目が増加し、それに伴い業務も増加。その結果、人材配属の相談など、個別対応が必要な業務に時間が割けなくなっていたという。また、大量のデータを処理する業務が多いため、これらの業務の作業効率を上げる必要にも迫られていた。
これらの課題を解決すべく鈴木氏は、決められたシナリオで自動化できる業務にロボティックプロセスオートメーション(RPA)の導入を決定した。鈴木氏は、「たとえば労働基準法では、企業が法定労働時間を超えて残業を命じる場合に、所轄の労働基準監督署へ届け出ることが義務付けられています(36協定)。こうした法的手続き項目や勤怠管理などの労務管理は定型業務なので、自動化できるのです」と説明する。
東京支店の人事部でRPAの導入を決定したのは2019年1月。すでに清水建設本社の人事部勤労グループでは、NTTアドバンステクノロジが提供する「WinActor」を2018年1月から導入していた。鈴木氏は「ほかのRPAツールも比較したが、WinActorは(建設業界の)個別業務のクセを調整するという部分でシナリオが組みやすかった。本社での導入実績があったため、東京支店人事部でも導入を決めた」と語る。
メリットがあれば現場は積極的に動く
WinActorの導入には、総合人材サービス、パーソルテンプスタッフの「RPAアソシエイツ」サービスを利用した。同サービスは、RPAのロボット開発や導入のハウツーを持つ専門スタッフを育成し派遣するもの。本格導入が始まった2019年5月時点で清水建設東京支社の人事部には17人在籍していたが、RPAの導入は鈴木氏とパーソルテンプスタッフからRPAアソシエイツとして派遣されている鹿島智香氏の2人が担当した。
RPA導入は鈴木氏が主導した。この時、鈴木氏が特に留意したことは「現場を巻き込むこと」だった。どの業務を自動化すればよいかを熟知しているのは現場だからだ。
とはいえ、人事部に5年以上在籍していた鈴木氏も業務内容やその課題は熟知しており、どの業務が自動化できるのかはおおよそ把握していた。鹿島氏とともに現場にヒアリングして、業務ロボット開発を鹿島氏が担当した。
当時の状況について鈴木氏は、「IT活用は全社的な取り組みだったので、走り出しながら課題を洗い出したり、自動化できる業務の選定をしたりしていた。人事部にはRPAはもとよりITに精通した人材がいなかったので、RPAアソシエイツである鹿島氏は頼りになった」と振り返る。
一般的に、RPA導入は、現場の理解を得ることが難しいと言われている。ともすれば、「ロボットに自分の仕事を奪われる」と警戒する従業員も少なくないからだ。この点について鈴木氏は、「現場はRPAをすぐに受け入れた。なぜなら、(導入の)うま味がわかっていたからだ」と説明する。
これまで自動化が進まなかった理由は、現場にとって直接のメリットが見えにくかったからだ。自動化や標準化に向けた作業で時間を割かれ、いざ自動化されたあとも自分の業務量が変わらなければ、現場としては“うま味”がない。しかし、RPAの場合は、自動化によって自分の業務がどれだけ削減され、効率化できるかが具体的にイメージできる。
「漠然と『時短』『改善』といっても、本人に直接のメリットがなければ、現場は真剣に取り組まない。しかし、今まで10時間も費やしていた作業が1時間で終了するとなれば、積極的に協力する。さらに、使い続けることで、現場からは改善提案が自然と上がってくる。このサイクルをうまく回すことができれば、さらなる効率化を実現できる」(鈴木氏)