導入したAI-OCRの効果を得るための工夫とは?--ファンケルの事例

國谷武史 (編集部)

2021-03-04 06:00

 業務の改革・改善の有効手段として、近年は紙文書の内容をデータ化するOCR(光学文字認識)と適正なデータとして利用できるようにするためのAI(人工知能)を組み合わせたAI-OCRを導入する組織が増えている。その活用をどう軌道に乗せればよいか。ファンケルに取材した。

 AI-OCRが注目されるのは、従来のOCRで課題だった人が手書きした文字などをうまく読み取れないという点を克服できるためだ。読み取りとデータ化をした情報をAIに学習させ、自動補正や読み取り精度の向上を図るためのアルゴリズムを生成し、継続的に改善させる。これにより、誤って読み取ったり読み取りができなかったりした場合のデータの修正や再読み取りなどの手作業を削減できる。データが正しくなれば、目視修正するが、全項目を手作業で受注登録していた以前と比較すると数項目の修正で完了できる。

 化粧品や健康食品の研究開発、製造、販売を行うファンケルは、顧客から商品購入の注文をハガキやファクスで受け付けている。従来は外部の協力会社に委託し、これら紙文書に記入された注文情報をOCR機器で読み取り、読み取り後のデータを修正したり、あるいは再び読み取ったりして顧客管理システムなどに登録していた。しかし、外部委託費用の見直しやOCR機器の老朽化などの課題が浮上し、社内業務に切り替えるためにAI-OCRを導入した。

 顧客に対応しているカスタマーサービス本部 業務部フルフィルメント改革推進グループの籾山瑞季さんによると、先述の課題に加えて全社的な業務効率化の取り組みがあり、業務部では2020年度末までに業務量の50%削減が目標になっている。AI-OCRの導入はこの取り組みの一環になる。

 同社は、2016年に基幹システムを刷新した際、データ連携基盤としてセゾン情報システムズの「DataSpider Servista」を導入した。AI-OCRの導入では複数製品を比較検討したが、2018年にリリースされたDataSpider Servistaと連携するCogent Labs(コージェントラボ)のAI-OCRサービス「Tegaki」を採用している。グループIT本部 情報システム部 事業サポートGの八木冴子さんは、「基幹システムと互換性があり、読み取りでの識字率やセキュリティレベルも高く、セゾン情報のサポートもあり採用を決めました」と話す。

ファンケルが導入したAI-OCRのシステム構成イメージ
ファンケルが導入したAI-OCRのシステム構成イメージ

 AI-OCRで業務を改善するには、当然ながら導入後の調整が鍵になる。ファンケルでは、現場でスムーズにAI-OCRの操作ができるよう丁寧な指導や研修を繰り返し実施した。「10年以上のベテランの方も多く、導入当初は作業に不安を感じた方がいました。2~3カ月を掛けて1人ずつ作業にしっかり慣れていただくことで、不安の解消に努めました」(籾山さん)

 次に、OCRで読み取りデータ化された情報を補正し、連携するシステムで問題なく取り込めるようにする必要がある。八木さんによれば、ファクスで送信された注文情報の読み取りが難しいという。「例えば、手書きされた文字の改行位置がお客さまによって異なるといったことがあります。特にファクスは、お客さまの送信環境に左右されることが多く、文字が反転してしまっていたりゆがんでしまったりすることで正確に読み取れず、ゴミのデータを削除したり判読が難しい文字を補正したりする必要があります」(八木さん)

 Tegakiの導入後は、OCRで読み取った際にそのまま処理を行うことに問題のないしきい値の設定を試行錯誤し、結果的に80%になるようにした。

 こうしたAI-OCRシステムの調整と平行して業務部では、AI-OCRでの読み取りをスムーズにするためハガキやファクス、チラシの見直しも進めた。顧客が大きな文字を記入しやすいデザインの検討や記入項目の削減、システムが文字を認識しやすい色味への変更などを試行錯誤し、15種類もの帳票を改訂したという。籾山さんによれば、色味の変更で顧客から改善の要望があり、すぐに印刷会社へ配色を変えてもらったこともあるとのこと。帳票の変更は業務プロセスに大きく影響するだけに、帳票類の変更作業は大変だったようだ。

ファンケル カスタマーサービス本部 業務部 フルフィルメント改革推進グループの籾山瑞季さん(左)とグループIT本部 情報システム部 事業サポートGの八木冴子さん(写真提供:ファンケル)
ファンケル カスタマーサービス本部 業務部 フルフィルメント改革推進グループの籾山瑞季さん(左)とグループIT本部 情報システム部 事業サポートGの八木冴子さん(写真提供:ファンケル)

 一連の取り組みによって、現在は受注1件当たりのシステムに情報を登録するまでの時間が従来の15分程度から平均5分程度に短縮された。業務時間に換算して500時間程度の削減になった。作業工数の約33%が効率化され、部門全体の目標である50%の効率化に大きく貢献している。担当者による目視確認も当初は全ての注文に対して行っていたが、AI-OCRシステムの導入直後は80%に、現在では50%程度に減少している。当初は補正なども行っていたが、現在はほとんどが目視確認だけで済んでいるという。

 AI-OCRの導入で業務部の改善が大きく進んだことにより、籾山さんは今後、業務品質や顧客満足度の向上といったさらなる取り組みに挑戦し、八木さんもシステム部として業務部で獲得したノウハウを全社の情報活用に展開していきたいと話している。

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