はじめに
全6回にわたって連載してきたMAシナリオ研究室も、今回が最終回となります。今回は、2000年代初期に提唱され、CRM(顧客関係管理)やMA(マーケティングオートメーション)と親和性が高いことから、近年BtoB(法人向け)マーケティングで再注目されているABM(アカウントベースドマーケティング)をテーマに、その考え方やメリット、MAの活用シナリオについてお話しします。
1.ABM採用時の工夫とメリット
非常になじみ深いABMの概念
ABMはBtoBマーケティング戦略の一つですが、日本人にとって決して新しい概念ではありません。「自社にとって価値の高い優良なアカウント(企業)を選別し、ニーズに合わせたコンテンツ配信などのアプローチをすること」と聞くと、「そんなの、当たり前では?」と思う人が大半でしょう。ABMは現在の主流となっているリード(個人)をターゲットとしたマーケティング活動の対極にあり、長い間、法人営業で行われてきた基本的な姿勢です。いわゆる「アカウント営業」を、マーケティング部門と営業部門が連携して行うのがABMであり、顧客第一主義が浸透している日本では非常になじみのある考え方でしょう。
マーケティング部門と営業部門の連携がABMを加速させる
ABMを行う際、取引先の中から優良なアカウントを幾つかに絞り、それらのアカウントにマーケティングや営業のリソースを集中させて、最適なアプローチを図ります。リード単位のマーケティングの起点が「認知」であるのに対し、ABMは「ターゲット企業の特定」が起点となるため、ABMを採用して効果が出やすい場合と、そのまま取り入れるのは適切でない場合があります。
例えば取引先企業のうち、一つの大企業をターゲットとして社内リソースを集中させれば、大きな成果を生み出せます。逆に、取引先に零細企業が多い場合、その中から数えるほどのターゲットに全リソースを集中させるのは、危険過ぎる判断です。このような場合は、零細企業を複数のセグメントに分けることで、効果を期待できるでしょう。自社の取引先の数や規模を踏まえた工夫次第で、ABM活用の幅は広がります。
また、上記以外にもABMの採用にはメリットがあります。
営業部門の目的は成約の獲得なので、基本的に営業活動は「確実に成果が出るであろう企業」をターゲットとします。そのため、規模が大きすぎる企業や、現時点で取引のない企業に対しては、労力ばかりがかかって成果が期待できないため、営業活動は消極的になります。
しかし市場にフォーカスするマーケティング部門からすれば、規模の大きな企業や新規の取引先を開拓しなければ、いつまでも成果が横ばいのままと感じてしまうでしょう。このように、営業部門とマーケティング部門では、「優良顧客」の定義が違うものになりがちです。