はじめに
第1回から前回までの記事では、「マーケティング担当者がMA(マーケティングオートメーション)ツールをどのように活用するか」という視点でシナリオを紹介してきました。しかしMAは決して、マーケティング担当者だけが活用するツールではありません。場合によっては営業部門の視点から、もしくは営業担当者自らがMAをうまく使うことで、より良い成果を導き出せることもあるのです。
今回は、営業部門の立場に立ったMAの活用についてお話します。
1.「マーケティング」と「営業」の違いをよく知る
日本におけるマーケティングの存在を振り返る
まず、日本におけるマーケティングの歴史を振り返ってみましょう。日本ではマーケティングという概念の歴史が浅く、多くのBtoB(法人向けビジネス)企業におけるマーケティング的役割は、営業推進部や営業サポート部といった部署が担ってきました。また営業部内においても、営業アシスタントとしての役回りで庶務や電話対応、資料のコピーなどを長らく担当していました。その業務が発展して、営業担当者の商談のための資料作成や会社案内を作成するといった、専門の業務となっていったのです。
BtoB企業においてマーケティングが「部門」として存在するようになったのは近年の話であり、最初はあくまでも営業のサポートというポジションでした。
今やマーケティングは企業競争力を向上させるためになくてはならない概念とされ、さまざまな定義と活発な議論が日々なされる一大セクションにまで発展しました。その発展に伴い、以前は営業部門が全て行っていた名刺交換(見込顧客の獲得)から契約締結までの一連の業務を、近年はマーケティング部門と分割するようになったのです。この流れにより、BtoB企業においても、社内にマーケティング部を持つ企業は珍しくなくなりました。そしてMAツールの普及により、「マーケティング部門は営業部門にホットリードを渡す部署」という考え方も定着してきています。
もちろん、マーケティング部門の業務は、営業部門にリードを渡すだけではありません。営業活動が円滑かつ効率的に進むような施策を考え、そのためのコンテンツや情報を提供するなど、多岐に渡ります。一方で、営業部門がそこに違和感を覚えている、というケースも多く見られます。なぜなら、「マーケティング部門から営業部門にリードを渡す」という考え方が、これまでの日本において慣れ親しんだ方法ではないからです。
営業部門とマーケティング部門はなぜ仲が悪い?
スタートが営業支援という形だったマーケティング部門と営業部門は、一本線でつながるフロー上にある関係です。つまり、マーケティングと営業のどちらかに支障があると、もう片方の部門にも影響が及ぶのです。
しかし「営業部門とマーケティング部門は仲が悪い」とよく言われます。身近な話として、身に覚えはないでしょうか。
それもそのはず、お互いに一本線でつながっている立場ではあるものの、営業とマーケティングには明確な違いがあります。営業の目的は成約を獲得することです。顧客との信頼関係を築き、課題解決の方法を提案します。そのため営業担当者は、目の前にいる取引先にフォーカスします。一方マーケティングの目的は、自社と市場/顧客の関係性をより良くすることです。そのため、マーケティング担当者は“個”を対象にせず、多くの人/市場にフォーカスし、アプローチします。
フォーカスする対象が「個別」か「全体」かどうかが、営業部門とマーケティング部門の大きな違いと言えるでしょう。個を見ているとどうしても短期視点でビジネスを捉えるようになりますし、全体を見ていると個への注意が欠けてしまいがちになります。
このように、売り上げを上げるというゴールは同じであるものの、そこへ向かうための考え方や立ち位置が全く違うため、双方がお互いの業務を理解しにくいのです。