富士通とフランスの国立研究機関Inriaは、時系列データにおいて異常な状態と判定した要因を特定する人工知能(AI)技術を世界で初めて開発した。
この技術は、Topological Data Analysis(TDA)技術をベースに、時系列データにおいてAIによる異常判定の要因を特定し、正常と異常間の判定の変化を視覚的に分かりやすく提示できる。TDAは、データをある空間内に配置された点の集合とみなし、その集合の幾何的な情報を抽出するデータ分析手法のこと。
近年ヘルスケアや社会インフラ、製造分野などで時系列データが収集され、AIを活用した状況判断や異常検知が行われているが、AIによる判定結果の根拠を説明することが求められているという。
時系列データの場合は、AIの判定要因が多種多様に存在するため、専門家であっても、どのようなデータの変化が異常判定に影響したのかに気づきにくく、異常な状態への適切な対応や防止策につなげることが難しいという課題があった。
TDAをベースとした異常を特徴づける要因を特定する技術
開発においては、まず富士通が開発した時系列データを特徴ごとに分類して異常検知する解析技術を用いて、AIにより異常と判定されたデータから、異常判定の要因となった特徴と、そうでない特徴を平面(TDA空間)上にマッピングした。
次に、その平面上で要因となった特徴の点データを、要因ではない特徴の点データ群に近づける変換を行い、換後の点データ群の特性に基づいて、時系列データを復元し、正常と判定されるデータを生成した。これにより、正常と異常の時系列データの形状を比較でき、ユーザーは異常の原因究明を視覚的に行うことができる。
せん妄状態の脳波データ(青線)と本技術で生成した正常と判定される脳波データ(赤線)
外部研究機関の協力を得て、脳波の実データを活用したせん妄検出に今回開発した技術を適用したところ、時系列データの波形の特徴がせん妄状態に現れるSlowing現象と一致することが確認できた。
これらの結果から、時系列データの読影を通じて病気の原因を推定する際の参考にすることが期待できる。また、これまで困難だった病気の予兆判断や予防的な治療法の発見、解明されていない病態のメカニズム解明への応用など、医学的発展につながることが期待される。
富士通とInriaは、今回共同開発した技術について、企業の業務現場や研究機関の実験などでの活用を促し、技術検証していく。また、富士通は技術の改良を重ね、2021年度中にAI技術「FUJITSU Human Centric AI Zinrai(ジンライ)」の一つとして実用化し、幅広い分野への展開を目指す。