Clouderaは11月10日、日本市場の戦略に関して報道関係者向けのオンライン説明会を開催した。
同社 社長執行役員の大澤毅氏はまず、約1年前の就任後に感じた驚きとして「ビッグデータに関するグローバルトレンドのスピード」「中国、韓国、インドネシアなどアジア太平洋(APAC)の他地域においてビッグデータ統合基盤の全体最適化が日本よりも進んでいる」「自社のデータに付加価値をつけて新しいサービスを開始する“DX 3.0”を推進している企業がますます増えている」という3点を挙げた。
Cloudera 社長執行役員の大澤毅氏
グローバルでの採用実績。銀行のトップ10のうち8社、テレコムでは10社全て、40以上の政府系ユーザー、製薬会社はトップ10中9社、テクノロジー企業はトップ10全社、製造業で200社以上、という数字が挙げられている
また、グローバルにおける同社ビッグデータ統合基盤「Cloudera Data Platform」(CDP)の導入数を挙げ、さらに「エッジの効いたテクノロジーカンパニーとしてマーケットアウェアネス(市場認知)をあまり重視してこなかった」としつつも、さまざまな企業で採用されていることをアピールした。
続いて、同社の事業状況について紹介。欧米では引き続き堅調なことに加え、特にAPAC/日本での成長が著しく、日本を除くAPAC地域では前年対比で33%増、日本では142%増を記録しているという。その理由として「既存顧客のCDPへのマイグレーションが進んだ」「概念実証(PoC)から本番稼働に移行する新規顧客での採用が順調に進んだ」(大澤氏)と説明する。
同社が市場で支持を得ている背景となるグローバルトレンドとして、「ワークロードにおける環境選択の多様性」「クラウドプロバイダーを使い分けたマルチクラウド」「データガバナンスとコンプライアンス」の3点を指摘。
データ領域における3つのグローバルトレンド。セキュリティやガバナンスに配慮したハイブリッドマルチクラウドが志向されているという
従来はオンプレミスかクラウド化の二択で考えていた企業がワークロードの内容によって柔軟に環境を使い分けるようになってきたこと、パブリッククラウドに関しても複数を使い分ける傾向が強まっていること、データに関するセキュリティ上の懸念や一般データ保護規則(GDPR)に代表されるデータ主権への懸念や法規制対応などが重大課題となりつつあることが「ハイブリッドデータクラウド」に向かう市場のトレンドにつながっており、この流れが同社製品の後押しになっているという。
大澤氏は、同社について2008年の創業からの約10年を「Apache Hadoop」を軸としたビッグデータ基盤で大きなシェアを獲得した「Cloudera 1.0(IaaS)」、2019年のHortonworksとの統合などを経て“業界初のエンタープライズデータクラウド”を提供する「Cloudera 2.0(PaaS)」と位置付けた上で、2021年を第2の創業期として“The Hybrid Data Cloud Company”の実現を目指す「Cloudera 3.0(PaaS&SaaS)」だとした。
同社のこれまでの歴史を踏まえ、新たに“Cloudera 3.0”を掲げる
なお、これまで同社のソリューションはオンプレミスやPaaSでの提供となっていたが、今後はSaaSでの提供も開始する予定だという(2022年2月予定)。同氏はCDPの強みとして、「ハイブリッド+マルチクラウドのデータを包括的に管理する単一のプラットフォーム」「データ収集から分析、可視化、人工知能〈AI〉まで全て網羅」「高度なデータセキュリティとガバナンスを簡単に設定・運用」「前環境のデータの探索や監視・移動・複製をコントロールできるコックピット」「100%オープンソース技術かつPaaS、SaaS両サービスの提供が可能」の5点を挙げた。
また、Cloudera 3.0の5つの取り組みとして、「Clouderaラボ」「プロダクト開発ボード」「イノベーション創出フォーラム」「エグゼクティブブリーフィングセンター」「エコシステム連携」を挙げ、製品技術に加えてユーザー企業とのコミュニケーションを重視していく姿勢を示した。
Cloudera Data Platform(CDP)の主な特徴
日本の戦略としては、3年後の目標として「APACにおける売上比率で1位(世界2位)を目指す」という。同氏によれば、現在のAPACエリアでの売り上げの順位は、1位の中国に、オーストラリア/ニュージーランド、韓国と続いて日本は現在4位だという。中国に関しては「Alibaba Cloud」上でCDPがリリースされたことが追い風になっており、韓国は「5G技術を活用したビッグデータビジネスを推進したいテレコム企業のニーズが増えている」ことが理由として挙げられている。
こうした状況を踏まえて、同氏は「2021年のビジネス成長率や日本の市場特性からハイブリッドデータクラウドはニーズに合致していると予想しており、大きなビジネスを期待している」と語っている。
日本での戦略
Clouderaは、かつてビッグデータのためのプラットフォームとしてHadoopが注目を集めていたタイミングでHortonworksと並び大きな存在感を発揮していた企業だ。一方で、2018年に発表された両社の合併は、Hadoop市場の成長が今後鈍化するという市場の見方を裏付ける形となった。その後、Clouderaに関するニュースを目にする機会は減っていたが、2021年6月には投資会社による買収を経て非公開化され、併せてSaaS企業の買収も発表されたことで戦略変更が行われた形だ。
この間、オンプレミスを中心としたHadoopプラットフォームの構築は過去のトレンドとなり、今は多くの企業がクラウド上にデータプラットフォームを構築することを優先的に考えるようになっている。こうしたトレンドの変化を受けて新たにハイブリッドデータクラウドを前面に打ち出し、さらにSaaSにも取り組むという同社の取り組みは、戦略としては正しいものに見える。
一方で、日本企業の課題としてはデータプラットフォームの構築やデータ活用に取り組む人材が不足気味という点だろう。同社ではNECとの緊密なパートナーシップを継続しているが、こうしたパートナーとの協力で日本企業が必要とする支援を提供できるかどうかが今後問われることになりそうだ。