あなたの知らないMDM(マスターデータ管理)の世界--MDMの正しい使い方

第2回:「名寄せの奥深い世界」へようこそ

水谷哲 (NTTコム オンライン・マーケティング・ソリューション)

2021-11-18 07:00

名寄せとは

 「名寄せ」というものを、読者の皆さんも一度はお聞きになったことがあるはずだ。聞いたことがなくても、例えば、町内会なり同窓会なりで名簿を複数持ってきて突き合わせれば、それが名寄せである。クラブ活動で入部届けをもらって、実在の人物かどうか確認するのも名寄せである。

 名寄せが国民的に有名になったのは、国民年金における名寄せの一件だ。

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名寄せの奥深い世界

 「年金の支給が漏れているかもしれません、別人に年金を払っているかもしれません」という人が何百万人も出てきたという事件である。住民基本台帳や名寄せが悪者のようにも見えるが、それは発覚のキッカケに過ぎない。名寄せをしなければ埋もれたままだったはずだ。

 「最初から人を確認しておけばよかった」と言いたくなるが、それは後知恵である。中国では「事後諸葛亮」、日本では「後出し孔明」という。実際には多くの困難が待ち受けており、名寄せ未経験の野生の名簿は山ほどあるはずだ。

 今回のテーマは「名寄せ」である。名寄せとマスターデータ管理(Master Data Management:MDM)とは切っても切れない関係にある。

 マスターデータとは、システムにおけるいわば名簿のことだ。通常はシステムごとに名簿を持っている。別のシステムにあるのは別の名簿のため、実際に同一人物かどうかシステムだけでは分からない。

 人物と書いたが、製品やサービスにも名簿がある。同じ製品でも複数の名簿がある。同じモノであっても設計は図面、生産管理は品目、営業は商品であり、1対1とも限らない。例えば、ビールは「1本」と「1ケース」で別モノである。値段が違い、重さが違う。ケースから1本抜いたら19本の商品になり、もうケースとしては売れない。海外で売ろうとすれば、現地で好感をもってもらえる名前にしなくてはならないし、現地に同名の商品が既にあれば避けなくてはいけない。

 名簿は放っておくとどんどん乖離するものである。できるだけマメに、全体を見渡しつつ乖離を抑える。これが名寄せの役目であり、MDMの重要な役割である「同期」を果たす。

 「そうだ、名簿が複数あるからいけないんだ。1つにしてしまえばいいじゃないか」という考え方はもちろんある。それが統合マスターだ。シンプルで良い解決法である。ITを活用すれば実現は容易に見える。しかし、問題が2つある。

 1つは、現在そうなっていないこと。現在バラバラのものを1つにするのは、最初から統合マスターを作るよりも桁違いに困難である。統合マスターのプロジェクトで2年以内に終わったものを見たことがない。またあるプロジェクトでは「これまで3回失敗している」と言われ、さらに詳細な状況と失敗の理由分析まで見せてもらった。そこまでキッチリした企業ですら、繰り返し失敗し得るということだ。

 もう1つは「遅い」ということ。近年、「クラウドファースト」と言われ、システム環境の変化は著しい。より安い方、より便利な方に引っ越すことが求められる。

 しかし、クラウドサービスにもデータは移行しなくてはならない。クラウドサービスには統合マスターにない項目、合わない項目が出てくる。それを合わせ込むのに何カ月もかかってしまう。

 そのクラウドサービスに合わせたとしても、次のクラウドサービスへの「引っ越し」にも同じ手間がかかってしまう。ベンダーならぬ「マスターロックイン」とも呼べる現象だ。

 統合マスターではない別のアプローチがMDMだ。複数あるマスターにITの横串を通す仕組みである。早い話が読み替え表であり、システム間の翻訳辞書だ。別マスターの別データでも、同一人物だと分かればいい。それがデータになっていれば、瞬時に処理できるという考え方である。

 MDMはゴールデンマスターを軸にして読み替え表を作る。ゴールデンマスターとは、システムに依存しないマスターのことだ。強いて言うなら業務そのものに依存するデータである。その読み替え表をMDM用語では「クロスリファレンス」と呼ぶ。クロスリファレンスを作る作業が「名寄せ」である。

 簡単そうに聞こえるが、自分でやると絶望するのが名寄せだ。作業そのものは簡単である。データとデータを突き合わせ、同一人物ならば同一人物の「印」を付けるだけだ。

 だが身も蓋もない結論を言えば、そんなに簡単ではない。どこがどう難しいのか、どういうやりようがあるのかを整理してお伝えするのが今回の主旨である。

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