住友ゴム工業とNECは11月15日、タイヤ開発における熟練設計者のノウハウの人工知能(AI)化に成功したと発表した。人間の感覚を用いて判定する検査を「官能評価」といい、官能評価の解釈は熟練の設計者とテストドライバーのコミュニケーションによって成り立っており、これまで体系化が非常に困難な領域だったという。
タイヤ開発における官能評価では、究極の完成度を求めてテストドライバーの定性的な評価に擬音が使われることがあり、同じ現象でもドライバーによって表現が異なることがあった。また、官能評価の解読には経験・ノウハウが必要で、評価結果から改良案を導くノウハウが熟練設計者に集中していた。
住友ゴム工業 タイヤ技術本部 技術企画部 担当部長の原憲悟氏は、「タイヤ開発は理論通りにならないことが多くあり、ノウハウに頼る部分が多かった」といい、「一人前になるには最低でも5年は修業が必要で、最初の上司が誰だったかが将来に大きく影響する」とこれまでを振り返る。その上で、「これでは時代に取り残される」(同氏)と危機感を抱いたのだと語った。
NECでは、同社のデータサイエンティストが熟練設計者と共同でテストドライバーの定性評価を項目化し、評価を読み解く経験・ノウハウを体系化したAIの学習データへ加工。さらに、熟練設計者は過去に開発したタイヤの官能評価を項目分けした体系化データを作成し、結果にひも付く改良案も体系化した。
住友ゴムとNECは、AIによって答えを出すだけではなく、熟練設計者の思考プロセスを可視化することで、若手設計者の理解を深め、真の技能伝承を目指すために、グラフAIを活用する計画。住友ゴムは、こうした業務改革によって若手設計者の開発効率向上を図るとともに、新しい働き方へのシフトを加速してより高度な技術開発に集中させていく。
グラフAIを活用することで、これまでのAIではブラックボックスだった思考プロセスを可視化している
住友ゴムは2023年から開発する二輪車用タイヤで同システムを活用し、その後、乗用車用タイヤなど他のカテゴリーにも展開していく予定。また、材料開発などと連携して「タイヤ開発AIプラットフォーム」を構築していく計画という。住友ゴムは同システムをはじめ、AIやビッグデータをより効果的に活用することで創造的かつ生産性の高い研究開発環境を整え、持続可能なモビリティー社会の実現に貢献する安全安心な高性能タイヤ開発につなげていく。