現在世界が直面している重大なセキュリティ問題の1つに、ランサムウェア攻撃があることはよく知られている。そして、ランサムウェア攻撃による被害の中では、金銭的な被害が一番分かりやすく、話題になる頻度も高い。しかし、被害は金銭的なものだけではない。
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英国の王立防衛安全保障研究所(RUSI)とケント大学が共同で立ち上げたプロジェクト「Ransomware Harms and the Victim Experience」は、ランサムウェアが被害者や社会に与える心理的な被害やその他の影響について調査し、注意喚起を行うことを目指している。
サイバーセキュリティを専門とするケント大学教授であり、RUSIのアソシエイトフェローを務めるJason Nurse氏は、ロンドンで開催された同プロジェクトの立ち上げイベントで、「ランサムウェアに言及されることは多いが、被害者やランサムウェアの影響が注目を浴びることは少ない」と述べている。
同氏はさらに、「ランサムウェアに関しては金銭的な被害が注目されがちだが、このプロジェクトが特に関心を持っているのは、金銭的なもの以外の被害であり、被害を受けた組織や個人が、ランサムウェアによってどのような影響を受けているかだ」とした。
このプロジェクトの目的は、ランサムウェアが組織や個人に与える影響を広く知らしめることだ。このプロジェクトは、サイバー攻撃が「現実世界」に与える影響を理解し、広範囲に悪影響を及ぶことを防ぐための、フレームワークを提供しようとしている。
サイバー攻撃はサイバーセキュリティ業界の問題だと考えられがちだが、大規模なインシデントが発生すれは、広い範囲に被害をもたらす可能性がある。つまり、ランサムウェアは、ITの専門家以外にも大きな影響を及ぼす可能性があるということだ。英国の国営医療サービスを運営する機関である国民保健サービス(NHS)は、2017年に世界を揺るがせたランサムウェア攻撃「WannaCry」の被害を受けた中で特に有名な組織の1つであり、その際にランサムウェアの影響の深刻さを身をもって経験している。
この攻撃は北朝鮮が始めたものとされている点で、一般的なランサムウェア攻撃だとは言えないが、サイバー攻撃が大きな被害を及ぼす可能性があることを証明する事例にはなった。このインシデントでは、多くの病院や診療所がコンピューターシステムや診療予約情報にアクセスできなくなり、診療サービスが遅延したりキャンセルされたりした。