2022年は「クラウドファースト」「クラウドネイティブ」なる言葉が企業にとって身近になるほど、クラウドの利用がさらに進んだといえるだろう。その原動力の中心にあるのが、「データ活用」だ。グーグル・クラウド・ジャパン代表の平手智行氏は、2023年を「データ活用が本格化するクラウドの応用期」と明言する。同氏に2022年のビジネス状況と2023年の展望を聞いた。
--2022年のビジネストピックはいかがでしょうか。
Google Cloudにとって2022年は、大きな躍進の1年でした。振り返ると、お客さまがクラウド利用の転換期を迎えていると感じます。IaaSに始まったクラウド利用が確実に次のステージ、すなわちクラウド導入での付加価値となるデータ活用へ本格的に入りつつあります。データの活用をAI(人工知能)や機械学習で高度化する「Google Transformation Cloud」の利用と実装数が非常に伸びました。
グーグル・クラウド・ジャパン代表の平手智行氏
また、それを支えるパートナー企業さまとの協業体制も大きく拡大しました。パートナーさまとお客さまが同時に参加するコミュニティー「Jagu'e'r」(Japan Google Cloud Usergroup)でも新しい事例や利用方法を、エンジニアも交えて一緒にディスカッションしていくといった活発な動きを見せています。
--Google Cloudではデータ活用の導入事例が多く見られます。先進的なユーザーの特徴はどのようなものですか。
お客さまや業種ごとにさまざまな取り組みをされていますので、イノベーションの内容も多種多様ですが、やはりデータと機械学習の活用が本格化していると思います。
例えば、昔のCRM(顧客関係管理)は、企業側の製品やサービスの中心にして「重要顧客」「見込客」というように分類していましたが、現在では顧客を中心にしてさまざまなデータを集めて利用するという形に変わっています。また、利用者視点で大量のデータを汎用性と即時性、つまりはリアルタイムに収集することが重要です。SNSやチャット、気象情報などの非構造化データもデータウェアハウスに取り込み、正規化して分析し、新しい知見を獲得するという、本当の意味でのデータドリブンなイノベーションが起きており、あらゆる業種で顧客の期待を上回る「顧客体験」が実現されていると思います。
--逆に課題には、データ活用に必要な人材やスキルの不足が指摘されています。昨年9月にGoogleのSundar Pichai CEO(最高経営責任者)が来日した際も、日本への投資施策の中でデジタル人材の育成を表明しています。
Pichaiがお話をしたように、さまざまな人材育成プログラムの提供にしっかり取り組んでいるところです。1つはリスキリングの観点でお客さまのデジタル活用スキルを高めていただくプログラムを複数提供しています。また、内製化を支援する「Tech Acceleration Program」(TAP)も人気を博しています。ここでは、ソフトウェアのプロトタイプ作成支援とアーキテクチャー設計支援の2つがあり、どちらも高いご評価をいただいています。
また、Google Cloudのスキルを習得されたデジタル人材を全世界で4000万人以上輩出する取り組みを推進していますが、日本でも日本語の「Google Cloud Skills Boost」を提供しています。これは、クラウドを直接運用・管理したり認定を取得したりするためのオンラインプログラムで、現在不足しているマルチクラウドやハイブリッドクラウドを適切に利用することができる人材を育成しています。
さらに大きな枠組みとしては、昨年6月に「日本リスキリングコンソーシアム」を設立しました。グーグル・クラウド・ジャパンが主幹事となり、地方自治体や非営利法人など40以上の組織が参加して、220種類のオンラインによるスキルアップ研修を提供しています。
--グローバルを含めた多様な人材育成策を展開していますね。
毎日お客さまと会話をしていると、「VUCA(Volatility=不安定さ、Uncertainty=不確定さ、Complexity=複雑さ、Ambiguity=あいまいさ)」がよく出てきます。ですから、データによる可視化、業務の可視化が必要とされ、そこにスピードを掛け合わせなくてはなりません。データの可視化ができなければ策を打つことができませんし、スピードが競合より劣る、市場の変化よりも遅いとなると、ここは「可視化×スピード」の掛け算ですからマイナスになり価値が無になります。
だからこそ価値をプラスにするためには、従来のテクノロジーで得た過去の成功体験を一度忘れ去り、新しいテクノロジーと新しい人々の営みに対応するべく新しいスキルを獲得しなければならないのです。
--世界情勢や経済状況などが短期間にこれだけ目まぐるしく変わり続けていると、もうデータを頼りにせざるを得ないわけですね。
もはや「DX(デジタルトランスフォーメーション)」の言葉がバズワードから形骸化して、お客さま企業のトップもDXがCX(顧客体験)にきちんとつながっているか、そして、CXから「Experience」(ここでは意図は「体験の本質」)へつながっているかを重視しています。セキュリティとプライバシーを徹底的に担保した上で、DXによりデータを収集・分析してCXを高度化することにより、本当にお客さまが革新的な体験をされるところに至ることができているか、そこに行くことが急務だと考えています。
ですから、CXの向上を目指すDXの“導入”といったものは、2022年で終わりました。現在は“導入”から“応用”への段階に移り、2023年は“応用”の段階を本格的に進んでいくものになると見ています。