日本生活協同組合連合会(日本生協連)は、2020年6月に2030年に向けたビジョンをまとめ、その1つである「生涯にわたる心ゆたかなくらし」に向けた具体的なテーマの中で情報通信技術(ICT)による事業・活動でのデジタル変革(DX)の推進を掲げている。この取り組みを進めるため2021年2月に「DX-CO・OPプロジェクト」を本格始動させ、生協のDXを目指している。
日本生協連は各地の生協が加入する全国連合会。2021年度時点の組合員数は約3017万人、加入生協は314、会員生協の総事業額は約3兆7000億円に上る。
同プロジェクトで実現を目指すコンセプトの1つに「家族との豊かな関係構築を支援するパートナー」がある。これは、デジタル中心の生活者に向けた、新しい暮らしを提案するもので、例えば「献立を考えるところから、食材購入、調理、食事、後片付けといった一連の流れの中での不便さを解消し、時間的なゆとりを生み出すだけでなく、家事の習熟度にあった献立提案や自分に合った商品を探しやすくすることで、ゆとりある暮らしを実現する」と日本生協連では説明する。
具体的施策では、ECサイト上で注文する際に、おすすめのレシピや過去の注文履歴とマッチングして一週間分の献立を人工知能(AI)が提案し一括で必要な食材を注文できたり、自分にあった商品をAIが選んでくれたりする仕組みの実現などを構想している。2022年6月にはレシピから必要な食材を注文できるウェブサービス「コープシェフ」の全国展開が進んでいることが明らかにされている。
その一方で、DXを推進するに当たっては、データ活用に関する課題を抱えていた。日本生協連のデータ活用を支援するフライウィールの代表取締役で最高経営責任者(CEO)を務める横山直人氏は、「地域組合間でデータが分断されているため膨大な組合員のデータが活用されておらず、地域組合内の部門間でもデータが分断されていて各部門が自由にデータを活用できない状態だった。情報システム部門、カタログ部門、店舗部門などの部門間でもデータ連携が不十分であった」と当時の状況を振り返る。
日本生協連では、フライウィールのデータ活用プラットフォーム「Conata」を活用して地域組合の共通データ基盤を構築した。購買データや顧客行動データ、発注データ、商品カタログ、レシピデータなどをデータウェアハウス/データレイク上に統合・整備した上で、デジタル空間に再現するデジタルツインを構築。横山氏によると、このデジタルツイン上で、例えば予測モデルを使ったA/Bテストなどを数千回わたって高速に回し、その有効性を評価・検証できる。そうして効果が確認されたモデルを実店舗や現場でのテストに適用すれば、スピード感を持って迅速に成果を出せるという。
Conataは、独自のアーキテクチャーを用いてデータを収集・整備・統合するデータ基盤と、「Discovery」「Intelligence」「Measurement」「Marketing」などの多様なニーズに応えるデータソリューション(同社はオファリングと呼ぶ)で構成される。「Conataには高速なデータの取り込みツールがあり、クラウド上に生データを置いておけば半自動的にデータが取り込まれる仕組みになっている。これがとても高い評価をいただいている」(横山氏)
フライウィールは、「KPI可視化/シミュレーター」「発注システム」「“あなたにおすすめ” 表示」「レシピ×食材マッチング」「カタログ配布の最適化」「検索エンジン」の6つの施策で日本生協連のデータ活用を支援している。
横山氏は「(日本生協連には)若い世代の利用を増やしたいという大きな課題を抱えていた。そこで、まずは現在の状況を可視化して、どういう人がどういう風に(サービスを)使っているのかを把握できるように分析ダッシュボードを構築した。これによって、定性的な情報だけでなく、定量的なデータに基づいて判断ができるようになった」と語る。
また、従来は宅配サービスを利用する組合員に同じカタログを届けていたが、データを可視化・分析することで、それぞれの組合員に必要なカタログだけを配布する方法を模索。シミュレーションを何度も繰り返し、売り上げを維持したまま配布部数を削減できる仕組みを開発した。「売り上げをほぼ落とさずに一部のカタログの配布部数を50%まで削減できた。組合員に不要なカタログを送らないことで、印刷コストの削減につながった。SDGs(持続可能な開発)の視点からも評価をいただいている」(同氏)
「(日本生協連のデータ活用支援の)ポイントは、データ連携については現在も改善を続けているものの、データを統合し、課題解決のための施策を1つのデータ基盤で実現しているということ。これによってものすごくスピーディーに進めることができる」と同氏は強調した。