NTTは3月2日、「APN IOWN1.0」のサービス開始に関する記者説明会を開催した。同サービスは16日に提供を開始する。
APN IOWN1.0は、同社が進める「IOWN構想」の実現に向けた第1弾の取り組みになる。同構想では、「低消費電力」「大容量・高品質」「低遅延」を目標に掲げ、順次取り組んでいる。同構想の実現のため、NTT、インテル、ソニーが2020年に創設した「IOWN Global Forum」には、2023年2月時点でアジア、米国、欧州を含む117組織・団体が参画している。
記者説明会に登壇した、代表取締役副社長 副社長執行役員 博士(情報学)の川添雄彦氏は、「APN IOWN1.0の提供において、特に低遅延化を打ち出していく」と説明。同サービスの特徴はPoint to Point(P2P)の専有型100Gbps回線であること。また、光波長を専有できるため、ほかのトラフィックの影響や遅延の「揺らぎ」がなくなることだ。
APN IOWN1.0が目指す目標を説明する代表取締役副社長 副社長執行役員 博士(情報学)の川添雄彦氏
加えて、遅延が一定で確定しているため、従来は必要だったアプリケーション側での待ち合わせやバッファ(緩衝記憶装置)が不要になり、結果として遅延を200分の1に抑制できるという。
また、同サービスの提供と同時にAPN端末装置「OTN Anywhere」 をNTT東日本、NTT西日本から販売する。同装置はNTT研究所が開発した「遅延測定機能」と「遅延調整機能」が搭載しており、拠点の遅延を可視化し、1マイクロ秒単位での遅延調整が可能になるという。併せて、同サービスの利用に必要な機材は市販製品という形で開発している。
APN IOWN1.0は、月額198万円での提供。OTN Anywhereは1台645万7000円からの提供となる。
APN IOWN1.0とOTN Anywhereの概要
低遅延の効用が期待される領域として同氏は、リアル/バーチャルの連携やロボットの遠隔操作、自動運転・交通制御などを挙げ、「VR/AR(仮想現実/拡張現実)や遠隔操作・制御、自動運転を普及させる上では、遅延時間が非常に重要な要因になる」と言及。
現在では情報処理の遅延により、VRゴーグルやロボット、自動車の中にオンプレミスでデータを処理する機能を入れる必要があるが、コストがかかる。これを解決するために、APNと組み合わせて、遅延時間を下げながらネットワークのクラウドを利用して分担していく。「これにより新たな経済性を創出することも考えられる」とコメント。最終的には、ユーザーデバイスの小型化、低価格化、低消費電力化に貢献できるとしている。
実際に、IOWN APN関連技術を活用した実証実験を2022年から行っている。例えば、東京、大阪、神奈川、千葉をつないだフルリモートコンサートでは、まるで一つのステージに全員がいるような感覚で演奏でき、リアルでの演奏と全く遜色がなかったという。また、メディカロイドが提供する遠隔手術ロボット「hinotori」を利用した実証実験では、大容量、低遅延かつ揺らぎがない通信により、8Kの高精細な映像を見ながら、複雑な手術を遠隔で実現した。
現時点で、同サービスを有償で利用する企業は、Oracle、アマゾン ウェブ サービス ジャパン(AWSジャパン)、エヌビディア、グーグル・クラウド・ジャパン、理化学研究所、国立情報学研究所、渋谷区、東急不動産、日本取引所グループ、三菱商事、メディカロイド、吉本興業の12企業・団体。同サービスを活用したビジネス実証や新たなビジネスの創造を推進していくとしている。
川添氏は今後に期待について「今、通信サービスが収入も含めて減少していく中で、新しい形で新領域を作りたいと考えている。私たち人類が直面している新型コロナウイルス感染症や異常気象、世界の分断などを解決する上で、依然としてテクノロジーが不足していると思う。その中で、IOWNは非常に有効で、これによって新たな価値を創造して、社会そして地球に貢献したい」と述べ、具体的なビジネスの方針について以下のように説明した。
「現在はIPネットワークが多くを占めているが、これはベストエフォートという形でネットワークができている。しかし、ギャランティードした形の新しいネットワークビジネスが必要になると思う。装置、デバイス、ソフトウェアも光電融合の技術を使った新しい領域のビジネスが生まれるだろう。これらを使った今までにないようなサービスを提供するプラットフォームビジネスも生まれると考えている」(川添氏)