理化学研究所(理研)は3月27日、理研らの共同研究グループが開発する国産として初めて稼働を開始した超伝導量子コンピューターを報道陣に公開した。同日からインターネット経由で同機を利用できるクラウドサービスの提供も開始した(関連記事)。
今回の超伝導量子コンピューターは国産初号機となり、文部科学省の「Q-LEAPフラッグシップ:超伝導量子コンピューターの研究開発」における取り組みとなる。理研、東京大学、大阪大学、産業技術総合研究所、情報通信研究機構による共同研究機関と、民間企業らの連携研究機関で構成される研究チームが開発を進めてきた。
同日の記者会見に登壇した理研 量子コンピュータ研究センター長の中村泰信氏は、「ムーアの法則」で知られ米国時間24日に死去したGordon Moore氏に触れ、「(Moore氏が法則を提唱した1965年)当時は学生だったが、それから30年以上にわたりトランジスターの著しい進化をけん引されてきた。人類の探究心が尽きることはなく、その将来に量子計算機がある」などと述べた。
また量子コンピューターの研究開発の歴史も振り返った。20世紀はトランジスターの発明や半導体技術開発などと相まって量子力学の観点から基礎原理の研究を中心に進められてきたものの、20世紀末にIT産業が社会基盤を担うようになり、新たに「量子情報科学」の領域が生まれた。中村氏は、「量子技術を情報処理に利用する可能性に注目が集まるようになって20年以上がたち、産業分野などへの応用への期待が広がっている」と現在の量子コンピューターの立ち位置を説明した。
量子コンピューターは現在のコンピューター技術を超越する計算能力を持つと期待されるが、実用レベルの量子コンピューターには100万量子ビットが必要とされる。1999年にGoogleが54量子ビットマシンを開発し、2022年11月にはIBMが超伝導型で433量子ビット「IBM Osprey」を発表。今回理研らが開発した超伝導型マシンは64量子ビットになる。
量子ビット数だけを見ると、実用レベルの実現にはまだ長い年月を要するが、理研では量子ビット集積回路やパッケージなどの開発において、量子ビット数を容易に拡張していけるアプローチを採用しているとのこと。また、制御ソフトウェアなどの開発をNTT、エラー訂正などの技術を大阪大学と富士通、27日に開始したクラウドサービスの仕組みなどを大阪大学が開発しているなど、量子コンピューターシステムの実用に必要な各種技術も進化を続けているという。
27日に開始したクラウドサービスは、当面は量子計算などの研究開発の推進、発展を目的とした非商用に限定される。中村氏によると、サービスで実際に利用できるのは、64量子ビットのうち53量子ビットになる。量子ビットの1つに不良が認められ、8つの量子ビットでは読み出し増幅器の配線不良と見られる不具合で使用ができず、2つの量子ビットについては設計が不適切なために近接して周波数衝突が起きてしまい計算に用いることができないことがそれぞれ判明したという。
中村氏によれば、当初に利用が見込まれる分野は物理学や化学で、近いうちに創薬やAI、金融工学などへの応用も期待される。「アプリケーションとともにハードウェアにもぜひ関心を持ってほしい。まずはクラウドサービスでさまざまな方に利用していただき、アイデアや可能性を探っていきたい」と述べる。
また、2023年度には富士通と共同運営する「理研RQC-富士通連携センター」でも今回の超伝導型マシンの実機を公開して社会実装への展開を目指すほか、ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)を組み合わせたハイブリッド型計算機システムによる活用領域の拡大なども目指していくとしている。
(変更履歴:初出時に「2025年度」とありましたが、「2023年度」となります。)