米国フロリダ州にあるIMG Academyは、世界からスポーツを志す学生が集まる全寮制の学校だ。日本との縁も深く、過去にテニスの錦織圭選手も所属していた。今回は同校 野球部門でのデータ活用の様子を見せてもらった。
IMG Academyは、Andre Agassi氏などの育成で知られるテニスコーチNick Bolletieri氏のテニススクールを起源とする。1987年にスポーツのブランドやアスリートのマネジメントを行うIMGが買収。その後、テニス、サッカー、野球、バスケット、ゴルフ、アメリカンフットボール(男子のみ)、ラクロス、陸上と種目を増やし、ちょうど3月にバレーボール(女子のみ)を加えたところだ。
IMG Academyでは学生を「Student-Athlete」(学生アスリート)と呼ぶ。通学する学生アスリートもいるが、ほとんどが寮生活を送る。総面積600エーカー(2.4平方km)の土地には、寮や学校はもちろん、テニスコート(屋内外含め55面)、サッカーグラウンド(16面)、野球グラウンド(9面)などの専用フィールドに加え、パフォーマンスセンターと呼ばれるジム/トレーニング施設もある。スポーツを志す学生にとってこれ以上ない理想的な環境が広がっている。プロのアスリートがトレーニングに来ることもあるという。
フィールドでは、各ベンチに2台ずつ設置したカメラなどからデータを得ている。IMG Academyの野球部門では、ピッチングには「Rapsodo」などのデータツールも活用している
IMG Academyの野球部門は約215人の学生アスリートが在籍する。ナショナルチームと学校代表のバーシティーチームがあり、2019年にはUSA Today Super High School National Championsに輝いた。同年は6人がメジャーリーグベースボール(MLB)のドラフトに選ばれている。先のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)では、日本に敗れたチェコ代表の内野手Filip Smola選手がIMG Academyの出身だ。
この日は、打撃練習におけるデータ活用を見せてもらった。説明してくれたのは、打撃コーチのJohn-Ford Griffin氏と打撃アナリストのTyler Newman氏。Griffin氏はToronto Blue Jaysなどで活躍した元メジャーリーガーで、Newman氏は、New York Mets、Boston Red Sox、Chicago White Soxなどのプロチームで選手開発チームのビデオ担当などを務め、1年前にIMG Academy所属となった。
IMG Academyで打撃コーチを務めるJohn Ford Griffin氏(左)と打撃アナリストのTyler Newman氏
打撃練習でIMG Academyが使っているサービスは「HitTrax」、バッティングブースのネット横に設置したカメラ、そして上部に設置したカメラとレーダーからデータを取得する。
選手が打撃練習をすると、HitTraxはボールがバットに当たるポイント、打球の速度、角度、距離、スイング軌道などを計算し、リアルタイムに表示される。
打撃練習に使っているHitTrax。最大打球速(“Exit Velo”を中心にデータが並ぶ)
選手やコーチがリアルタイムで確認できるよう、大型モニターも用意する
このうち重要視しているものの1つが、打球速度だ。長打などヒットになる確率が高いといった理由からだ。「最大打球速度が出た時のインパクト位置や体のポジションなどを見ている」という。
見せてくれたのは、IMG Academy所属で、世代別のナショナルチーム選出経験のある選手のデータだ。最大打球速度は90mph(約144km/h)がほとんど。選手が立っている位置や角度などのデータを見ながら、ホットスポットを探る。
HitTraxを導入したのは7年前、2022年には最新のカメラを導入した。打撃速度やインパクト位置に加えて、バイオメカニクスとして体の動きについてのデータも得ている。バイオメカニクスとは3次元モーションAI技術を使ったHitTraxの最新機能で、一連のバッティング動作における打者の股関節や肩、腕の動き、重心移動などを見ることができる。スイングデータをその場で確認したり、レポート機能で選手の長期傾向をつかんだりしているそうだ。
体の動きとの関連が分かるバイオメカニクスはHitTraxの新機能。IMG Academyでも数カ月前に使い始めた