本連載は、「CIOの『人起点』マニフェスト」をテーマに、Ridgelinezの最新の知見をお届けする。第2回の今回は、「テクノロジー・スプリントによる新たな成長基盤の構築」と題し、最新のテクノロジーをいち早く導入して自社のビジネス課題を解決し、競争力を高めていく取り組みの重要性について取り上げる。
激化する市場競争を勝ち抜き、持続的な成長を実現していく上では、優れたビジネスのアイデアや商品、サービスの開発力が重要であることは言うまでもない。しかし、目まぐるしく変化する現在の市場環境においては、もはやそれだけでは十分とは言えない状況になっている。
その背景にあるのが、急速に進化するテクノロジーの存在だ。次々と登場する新たなテクノロジーは、消費者の行動に大きな影響を与え、そこから新たなニーズも生まれる。企業はこうした動向をいち早くとらえ、先手を打って市場の要求に応えていかなければ、いずれ競合の後塵を拝することになるのは確実だ。つまり、これからのビジネスの成否は、市場環境の変化のスピードに追随していけるかどうかにかかっている。
Ridgelinezは、「テクノロジー・スプリント」を提唱している。これは、新たなテクノロジーのスピーディーな導入と活用を通じて、ビジネスのアイデアを商品やサービスとしてタイムリーに結実するための仕組みを示している。テクノロジー・スプリントの実践によって、企業は新たなテクノロジーに潜在する価値を正しく評価しながら、自社の競争力に転換していく長期的な成長基盤を構築することができると考えている。
日本企業は新たなテクノロジー活用に向けた備えが不十分
テクノロジー・スプリントの実践においては、日頃から最新テクノロジーの動向に目を配りながら、自社のビジネスに最適な形で導入・活用していく取り組みが欠かせない。それにはまず、新たなテクノロジーをビジネスの視点で正しく評価する仕組みと、実際の活用につなげていくための体制が必要になる。これを実現できているかどうかが、そのまま企業の競争力に直結すると言っても過言ではない。
では、日本企業の現状はどうだろうか。情報処理推進機構(IPA)が公開した「DX白書2023」によれば、競争力強化に必要なIT環境の整備を十分に達成できている日本企業は、全体のわずか5%程度だという。ここに「なんとか達成できている」を含めても20%前後にとどまっており、日本企業の約8割がIT活用においてさまざまな課題を抱えていることが分かる。
一方、米国企業の約6割はこの目標を達成できており、これが日本と米国の競争力格差の要因の一つだと考えられる。最近は、日本でも「センターオブエクセレンス(CoE)」や、「クラウドセンターオブエクセレンス(CCoE)」といった組織を社内に設けて、先端技術や技術人材、ノウハウの集約・強化に取り組む企業が増えている。だが、上記の調査結果を見る限り、日本企業の現状はグローバルの水準から遅れていると言わざるを得ない。
図1:ITシステムに求められる機能の達成度(日本/米国)、出所:IPA「DX白書2023」をもとにRidgelinez作成