近年、生成AIの技術が急速に進化し、その影響はビジネスの現場にも大きく及んでいる。生成AIの真の価値を引き出すためにはどのようなアプローチをすべきなのか。本連載では、生成AIの現状と企業が直面する課題、そして有効な利用方法を明らかにしていく。
企業内での生成AIの現状
近年の生成AI技術の進展は驚異的である。2023年3月に「ChatGPT」のAPI利用が可能になると個人やフリーランスによって、生成AIのアプリケーション連携などの試行が進んだ。同時に、ビジネスの現場でもさまざまな分野における活用に関心が高まり、大企業を中心に多くの企業で導入が進んできている。
背景としては、Microsoftの「Azure OpenAI Service」など、一定のセキュリティが確保された環境で活用できるようになったことがある。一方で、企業がこれらの環境で活用する際でも、多くの懸念点が浮上している。特に企業全体での情報セキュリティやビジネスリスクの問題は活用が高度化すればするほど、企業が自ら整理し解決すべき課題であろう。
導入済み/検討中の企業の声を聞くと、前述の2つの課題のほかに、主な懸念点・検討ポイントとして、「バイアス・不正確な回答」「倫理や社会的受容性、法律への対応」「具体的な活用のイメージ化と導入意思決定」「組織的対応と責任所在」が多く挙がっている。これらの問題はどの企業でも検討の際に出てくるものであり、導入や活用、本格的な利用を遅らせている要因であることは間違いない。
ただし今後、先行企業での活用例や公的・国際機関などでのルールの取り決め、権利侵害に関する訴訟の行方などが明らかになるにつれ、上記のことは徐々に一定のコンセンサスが形成されてくるであろう。
しかしながらコンセンサス形成を待つだけでは、先行企業との差が開き競争力の低下が避けられない。自社では「どのような方針で活用していくか」が決定されなければ、導入検討も有効な概念実証(PoC)もできない。全ての企業が、まずはどのような形で利活用するのかを整理することが必要である。今般の流れで全く利用しないという選択はもはやない時代に突入したと筆者は考えている。
企業が直面する生成AI利用の課題:乗り越えなければならない障壁と解決策
生成AIは、一般的には図1のような分野・領域での能力が高く、業務利用でも大きなメリットを享受できる。先行導入企業の多くも、これらの分野・領域のような活用を図るとともに、さらなる有効活用を模索している。
図1:“企業内ChatGPT”の主な実行可能タスクと企業内利用ユースケース
しかしながら昨今は、生成AIの急速な進化により文章生成や画像生成のような単一タスクを超え、マルチモーダルAI(画像、音声、動画など)への活用が進みつつあり、生成AI関連のサービスを提供する各社はこれを加速化させている。
さまざまな可能性を持つ生成AIであるが、これまで人工知能(AI)や機械学習(ML)を積極活用していた企業もそうでない企業も、ビジネスの現場で活用する際には多くの課題が浮上してくる。活用に当たっては、技術的な側面だけでなく、組織の文化や体制、さらには外部との関係性まで、多岐にわたる問題点を整理し、段階的に対応する必要があり、IT部門だけでは解決できない問題も多い。
最高情報責任者(CIO)をはじめとした経営陣やIT部門が主導し、段階的解決策を社内全体で共通認識として持てるまでにすることが肝要である。ややもするとどのようなビジネス課題に対して生成AIを活用すべきかが明確にならず、その機能は「単純な文章作成」や「一般的なアイデア出し」のみに限られてしまう恐れがある。
そこで、筆者は前述の各企業の声などから主に検討すべき課題(障壁)とその解決手法の一例として図2のようにまとめた。ここからそれぞれについて述べたい。
図2:生成AI利用における課題とその解決策例