生成AIは、ビジネスに大きな変革をもたらしている。データ駆動型の意思決定、顧客体験の向上、業務プロセスの効率化など、生成AIは今や企業の競争力を左右する決定的な要素となりつつある。これらの変化に適応し、革新を遂げるためには、最高情報責任者(CIO)やITマネジメント部門が中心的な役割を果たす必要がある。
生成AIのビジネス活用例と今後検討すべき点
生成AIのビジネスへの応用は、目覚ましい進展を遂げている。マーケティング領域においては、消費者の過去の購入履歴などから好みや傾向を分析し、個々に合った商品・サービスを推薦するなど、パーソナライズした対応が進む。チャットボットを用いたカスタマーサポートもAIが高度化することで、顧客の問い合わせに24時間迅速に対応することが可能となり、顧客満足度が高まるであろう。
ビジネス運営においても今後はAIがデータドリブンな意思決定をサポートしていくだろう。企業は膨大な市場データや顧客データを、生成AIを活用して分析し、製品開発やマーケティング戦略の策定に役立てることができる。また、サプライチェーンの最適化やリスク管理にもAIを活用し、より効率的かつ柔軟なビジネス運営が可能となる。今後AIが進化していくことで、より高度なデータ分析や予測モデリングが実現し、ビジネスの意思決定や運営においてさらなる効率化や革新が期待される。
さまざまな領域での活用が期待される生成AIだが、特に金融関連企業では、かつての自然言語を理解するAIチャットボットの黎明(れいめい)期と同様にいち早く着手しており、海外に限らず国内金融大手でも、顧客サービスや社内業務の改革推進活動において、生成AIの活用が進んでいる。
例えば、金融機関で法律上必要となる顧客への説明資料の作成や、説明内容の記録・管理における活用である。これにより、顧客訪問に向けた準備時間や事後の資料作成にかかる時間が半減し、より多くの時間を顧客との対面営業に注力することができるようになってきている。また、銀行内で汎用化している融資などの稟議書作成などに生成AIを用いることで、書類の作成時間が大きく削減した事例も出ている。これは内部の業務効率化での活用ではあるが、これにより生まれた時間を、前述の例と同様に顧客対応など人が対応すべき業務へ振り分けることにつながっている。
最近では、「ChatGPT」を提供するOpenAI以外の各社も、文章生成、動画、3Dなど、それぞれ特徴を持った生成AIモデルを発表しており、企業内業務の省力化だけでなく、図1のように顧客向けでの活用やビジネス展開(実装)、概念実証(PoC)などが活発に議論されており、今後ますます多くの業種業界で活用の可能性を広げていくだろう。
図1:生成AIの主要なビジネス応用分野と先行事例
CIOとITマネジメントの課題と対応
生成AIだけでなくAIを企業で活用を検討する上で、CIOおよびITマネジメント担当者は、複数の技術的・組織的な課題に直面しているのではないだろうか。
技術的な課題の一つは、データの質と量の管理である。AIを自社の目的に沿ったものとして活用していくには、追加の学習データなど大量かつ高品質なデータを必要とするが、まずこれらを適切に集め、処理し、分析することが容易ではない。データの品質と収集・管理については、DXを推進する上でも苦慮されているところではないかと思うが、ここでもAIの活用を推進する以前にデータガバナンスやデータマネジメントの強化が求められる。
また、データセキュリティに対する取り組みも不可欠で、厳格なセキュリティ基準の順守とデータプライバシー保護への対策が必須となる。
そして、AI技術の急速な進展に伴う最新技術のキャッチアップの困難さも技術的な課題の一つと言えよう。
組織的な課題としては、AIプロジェクトの組織内での調整と統合の難しさが挙げられる。AI導入はさまざまな業務プロセスに影響を及ぼすため、AI導入には、異なる部門間の協力が必要である。
例えば、マーケティング、販売、顧客サービスなどの部門は、AIを活用し、顧客データを共有・分析することで、より効果的なビジネス戦略を立てることが可能になることから、いち早く活用が進む部門と思われる。一方、AI導入によるプロセスの変更は、異なる部門間での連携と調整を必要とし、従来のビジネスプロセスや組織文化との整合性を考慮する必要がある。
これらの課題への解決策としては、第2回で述べたようにAIガバナンスの確立が重要であるが、その際AI利用の倫理基準の設定や利用プロセスの透明化だけでなく、組織内での責任と権限の明確化を含めることが肝要である。
そして技術・組織面の包括的な課題でもあり解決策ともなり得るのが、AIスキルの開発である。AI導入前から従業員に対するAI関連の教育とトレーニングを行い、AI技術の理解と活用能力を高めることが大切である。そして継続的な教育・トレーニングプログラムを導入し、定期的な勉強会を実施するなど、業界の動向の把握や最新の技術・手法に関する情報を常に更新していくことも大切である。