気候学者らは数十年をかけ、世界中のさまざまな地点における気象の変化をデータとして蓄積してきている。欧州中期気象予報センター(ECMWF)による、1950年にまでさかのぼる気候の記録である「ECMWF Reanalysis v5」(ERA5)に代表される取り組みは、地球上の風速や気温、気圧、その他の変量を1時間単位で記録した、いわば時間軸で見た地球のシミュレーションだ。
GraphCastという、グラフ理論に基づいたネットワークに対して、特定地点における数十年にわたる気候測定データを入力する。実際に入力されるのは、シミュレーションによって導き出されたERA5と呼ばれるデータ群だ。GraphCastはこのグラフをトラバース(走査)することで、該当地点とその近傍の地点における時間的経過に従ったデータを予測する。
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Alphabet傘下のGoogle DeepMindは米国時間11月14日、これらのデータ全てを用いて安価な気象予測を実現する上での転機が訪れたと発表した。DeepMindのサイエンティストらは、スーパーコンピューター上で従来型のモデルを処理するよりも高い精度で気候状態を予測できるプログラムを同社の「Tensor Processing Unit」(TPU)という単一の人工知能(AI)チップ上で完成させたのだという。
GraphCastに関するDeepMindの論文は、学術誌「Science」の第382巻に掲載されており、同誌にはこの論文が気象予測における「革命」だと評する編集スタッフの記事も掲載されている。
ただ、主執筆者であるDeepMindのRemi Lam氏とそのチームが記しているように、GraphCastというプログラムは従来型の予測モデルに取って代わるものではないという点を明確にしておく必要がある。これは既存の手法を「補完」する可能性を秘めたものだという。実際のところ、GraphCastがこの域に達したのは、人間の気候学者らがERA5という、時をさかのぼって膨大な日々のデータを蓄積する、つまり「再分析」(re-analyze)するための既存アルゴリズムを構築したために他ならない。地球規模での気象モデルを構築するというこうした緻密な努力がなければGraphCastは存在し得なかっただろう。
Lam氏のチームは、ERA5の一部の気象記録を用い、チームの開発したGraphCastプログラムが、気象予測の定番とされているHRESシステム(これもECMWFが開発したものだ)よりも、入力していない記録をより高い精度で予測できるかどうか見極めるという課題に挑んだ。