日立製作所では、2023年6月から「Hitachi Application Reliability Centers(HARC)」と呼ばれるマネージドサービスを国内展開している。これは、同社傘下の米Hitachi Digital Servicesが2022年に立ち上げたサービスで、システム運用の自動化を推進するSite Reliability Engineering(SRE)の手法に基づき、システムの俊敏性と信頼性の両立、セキュリティの強化、クラウドコストの最適化などを支援する。
現在、多くの企業がデジタル変革(DX)を推進するためにパブリッククラウドを活用しているが、クラウドサービスの増加によりシステムが断片化し、運用の複雑さが増している。これにより、運用チームは問題解決に追われ、従来の運用方法では対応が困難になってきている。この状況はシステムの安定性やセキュリティに悪影響を及ぼす可能性もある。さらに、クラウドの使用状況を正確に把握できないことで、予想外のコスト増加につながる恐れもある。
HARCサービスは、グローバルの先進事例や取り組みで培ったSREの専門的な知識・技術・ノウハウを持つソフトウェアエンジニアがさまざまなツールを駆使してクラウド全体の可視性向上や運用自動化を実現する。プロフェッショナルサービス(アセスメント)とマネジメントサービス(運用管理)の2種類で構成される。プロフェッショナルサービスでは、企業のクラウド運用の成熟度を評価(アセスメント)した上で、各種の改善施策やロードマップを提案。マネジメントサービスでは、企業と合同でSREチームを立ち上げた上で、改善施策を推進する。
Hitachi Digital Servicesで最高技術責任者(CTO)を務めるPremkumar Balasubramanian氏は、HARCサービスの特徴としてDevSecOpsとFinOpsを挙げた。DevSecOpsは、開発プロセスの初期段階から継続的にセキュリティ対策を担保するアプローチであり、開発スピードとセキュリティを両立させることを目指す。
Hitachi Digital Services 最高技術責任者(CTO)のPremkumar Balasubramanian氏
継続的なクラウドコストの管理と最適化を実現するのがFinOpsで、現状分析から、施策の提案/実装、継続的な監視/管理までの3段階を通じて、クラウド環境のコスト最適化を支援する。
また、HARCサービスでは現在、持続可能性のための設計にも取り組んでいるという。これは、クラウド上でどのようにコーディングすれば、より持続可能性の高いアプリケーションを構築できるかを実践するものだという。
グローバルでは30社以上、国内では10プロジェクト以上の導入実績があるという。HARCが訴求する付加価値は「運用代行による効率化」ではなく「継続改善を通じた成熟度の向上」であり、企業のクラウド運用の成熟度向上や継続改善を支援する伴走型のサービスとなっている。
「日本企業でクラウドの採用が急速に進んでいるが、適切な形でクラウドに移行するには支援が必要だ。その点において、HARCのアプローチは有効であると考えている。クラウド戦略は一貫性を持たせ、どのワークロードをクラウド化するかを明確にすることが重要になる。個々のステップだけでなく、全体のプロセスとして捉えるべきだ」(Balasubramanian氏)
国内では、オリックス銀行がHARCを採用している。同行のシステムを対象に「オブザーバビリティ(可観測性)」「インシデント管理」などクラウド運用の信頼性や運用効率を測る5つの観点で評価を行い、改善項目の洗い出しや優先順位付け、推奨の改善ロードマップの提案を行った。その結果を踏まえ、2024年4月から日立はオリックス銀行とともに実行計画を策定し、段階的なSREの成熟度向上を進めていく。