事業戦略から考えるソフトウェアアーキテクチャーと開発組織

事業拡大の過程で見えた、不動産バーティカルSaaSにおける分割開発の課題

大原将真 (イタンジ)

2024-09-02 06:00

 日進月歩のソフトウェア開発の現場では、システム設計(アーキテクチャー)の最適解の模索が続けられています。とはいえ、どの企業・プロダクトにもフィットする絶対的な正解は存在しません。時代の変化に伴うアーキテクチャーのトレンドも見つつ、自社の思想や状況に応じた開発方針を選択し、組み立てていく必要があります。

 とりわけ売り切り・買い切り型ではないSaaSビジネスにおいては、顧客との継続的な関係性構築が求められるため、長期的な事業戦略の視点が欠かせません。日々変わり得る状況の中で、先々まで見通しながら事業のフェーズに合った体制構築を、事業・技術・組織の3つの軸を意識しながら進めていくことが重要です。

 この連載では、不動産業界におけるバーティカルSaaS企業として、今まさに既存環境の見直しを進めている現場から、これまでの開発プロセス、現在抱える課題感や具体的な改善策などをお伝えします。同様の課題感を持つ開発現場やIT事業推進担当者の方々にとって、ご参考になれば幸いです。

なぜこうした開発環境となったのか?

 私が執行役員 CTO(最高技術責任者)を務めるイタンジは、紙やファクシミリといったアナログな商習慣が根強く残る不動産業界で、バーティカルSaaS企業として、業務支援SaaSの開発と提供を行っています。不動産取引を滑らかにすることをミッションに掲げています。

 不動産ビジネスは特殊性が高く、賃貸・売買、実需・投資、仲介・分譲・管理など、業務が細分化されるため、われわれはその中で、それぞれの業務の効率化を実現するプロダクトを複数展開しています。

サービス展開 サービス展開
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 例えば、賃貸管理の領域では現在、物件の掲載・募集から原状回復工事まで、マルチプロダクトから構成されるオールインワンのサービスを展開していますが、開発初期はこうしたマルチプロダクト戦略を想定していませんでした。そのため、事業が拡大するにつれて、当時は最適解だった開発アーキテクチャーが、現状に即して考えると課題とはいえないまでも、事業展開において足かせになる場面がある、というのが実情です。要因と対策を明らかにするため、これまでの過程を振り返ってみます。

 まず、今の事業展開の足がかりとなった1つ目のプロダクトが、「ぶっかくん」(2015年~)です。賃貸物件の管理会社の担当者が、仲介会社からの物件の空き状況をファクシミリや電話で確認する業務(不動産業界では通称「物件確認<=ぶっかく>」)に自動応答するというシンプルなものです。そこから派生して、次に「内見予約くん」というサービスが生まれました。

 実は、当時のイタンジは不動産仲介業務も行っていました。その現場で私たちが非効率だと感じ、現状を一刻も早く変えるために立ち上げたのが、「ぶっかくん」と「内見予約くん」だったのです。


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