海外コメンタリー

「iPhone」の米国生産は非現実的?--複雑な供給網と労働集約性の現実

Adrian Kingsley-Hughes (Special to ZDNET.com) 翻訳校正: 編集部

2025-04-30 08:11

 次に買う「iPhone」の背面に「Made in America」と刻印される日が来るだろうか。おそらく、期待しない方が良い。

 Donald Trump米政権は、iPhoneの生産拠点を中国やインドから米国へ移転させるという構想を打ち出した。米商務長官のHoward Lutnick氏は「何百万人もの人々が小さなネジを締め付けてiPhoneを組み立てる。そうした労働が米国にやってくる」と語っていた。

 しかし、それは現実的な話なのだろうか。iPhoneが世界中のサプライヤーから供給される何千もの部品で構成され、人件費の安い国々で手作業によって組み立てられているという現実を考えれば、先のような構想はたちまち現実味を失う。

 The Financial Timesは、iPhoneの部品の供給と組み立ての工程がいかに複雑であるかを分析している。それによると、最近のモデルは、28カ国にわたる187社のサプライヤーから調達された約2700個もの部品で構成されているとのことだ。これらの部品の大部分は中国と日本から供給されている。なぜなら、部品の供給元が組み立て工場に近ければ近いほど、調達は迅速かつ容易になり、コストも抑えられるからだ。

 しかし、問題は部品の調達だけにとどまらない。例えば、iPhoneの筐体に使われるアルミニウムフレームを考えてみよう。これらのフレームは、高精度のコンピューター数値制御(CNC)機械によってアルミニウムの塊から削り出される。このような高度な機械と、それを操作する専門知識は、現在のところ主に中国に集積している。

さらに、イットリウム、ランタン、ネオジム、ジスプロシウム、テルビウムといった希土類(レアアース)も必要不可欠だ。これらは磁石、ディスプレー、バッテリーなど多くの部品に使われており、もし供給がなければiPhoneの生産は立ち行かなくなる。その名の通り希少なこれらの資源は、その大部分が中国で産出されている。これもまた、「Made in America」のiPhoneという構想を阻む大きな要因だ。輸送コストや関税に加え、中国がこれらの不可欠な希土類の多くに輸出制限を課している現状は、テック企業にとって既に複雑なサプライチェーンをさらに困難なものにしている。

 しかし、仮にAppleが魔法の杖を一振りして、部品や希土類の調達に関する問題を全て解決し、さらにiPhone生産に必要なアルミニウム加工を行えるだけのCNC機械を米国内で確保できたとしても、組み立て工程はどうだろうか。

提供:Jason Hiner/ZDNET
提供:Jason Hiner/ZDNET

 iPhoneの組み立ては非常に労働集約的な作業であり、例えば、現在中国やインドで製造されている精密な小型ネジを無数に締め付けるといった手作業が多く含まれる。こうした作業は、自動化された工場を建設するよりも、中国やインドのような国々で人手に頼る方がはるかにコストを抑えられるのが実情だ。組み立て工場は巨大で、約30万人もの人々が敷地内で生活しながら働いているところもある。工場の物理的な規模だけでも圧倒的だが、これほど多くの人々を雇用し、米国とは大きく異なる労働環境や慣行を受け入れてもらう必要があることを考えると、課題はさらに大きくなる。

 例えば、iPhoneの組み立ての大部分を担うFoxconnのような企業は、新型モデルの発売時期に合わせて一時的に数万人規模の労働者を追加雇用し、初期の需要に対応した後は解雇するということを常態的に行っている。このような雇用慣行は、少なくともこれほどの規模においては、米国ではまず考えられない。

 加えて、たとえAppleが米国に同様の組み立て工場を建設したとしても、人件費の問題がある。中国の工場の基本給が月額約214ドルであるのに対し、米国の工場労働者の平均的な給与は約3500ドルにも上ることを考慮しなければならない。

 iPhoneをはじめ、私たちが手にするほぼ全てのテクノロジー製品を現在の価格帯で提供するためには、このような大規模な組み立て体制が不可欠だ。このシステムに何らかの変更を加えれば、製品価格はたちまち上昇することになるだろう。

 結論として、消費者は生産拠点を米国に移すために必要となるであろう、目が飛び出るほどの価格上昇を受け入れるとは考えにくい。そして当然ながら、Apple自身もその膨大なコスト増を全て負担したいとは考えないはずだ。これが、「Made in America」のiPhoneが決して実現しないと考えられる理由だ。

 その代わりに現実的に起こり得るのは、Appleが生産拠点を中国からインドへとさらにシフトさせる動きだ(現在、AppleのiPhoneの約16%がインドで組み立てられており、この割合は2025年中に20%に達すると予測されている)。したがって、私たちが次に手にするiPhoneの背面には、「Made in America」ではなく「Made in India」と刻印されている可能性の方が、はるかに高いと言えるだろう。

提供:Kerry Wan/ZDNET
提供:Kerry Wan/ZDNET

この記事は海外Ziff Davis発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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