膨大な案件から富士通が導き出したクラウドで成功する方法

ZDNet Japan AD Special 原稿:富永康信(ロビンソン)

2009-12-17 20:10

大量の情報が企業に流れ込むフィールドイノベーションの加速

 朝日インタラクティブ主催のイベント「仮想化技術×プライベートクラウドの新たな可能性」の2番目のセッションでは、富士通のプラットフォームビジネス推進本部でビジネス企画統括部の統括部長を務める武居正善氏が登壇。「クラウドがもたらす変革とは、企業経営を支えるITインフラのあるべき姿」をテーマに、同社が考えるクラウドコンピューティングを解説した。

 従来のICTの流れは本社のデータ処理から始まり、部門へと拡大してきたが、今後は電子商取引、電子政府/電子自治体、交通システム、エンターテインメントなどの社会(フィールド)でのICT利活用で生みだされる大量の情報が企業に流れ込むといったフィールドイノベーションが加速し、社会と企業がどのように情報を活用していくかを考える必要があるという武居氏は、「これを可能にするのがクラウドコンピューティングである」と断言する。

クラウド化したデータセンターの稼働率は従来の8倍

富士通
プラットフォームビジネス推進本部 ビジネス企画統括部 統括部長
武居正善氏

 クラウドといっても形はさまざまで、ハードウェアだけがクラウド化する形態がIaaS(Infrastructure as a Service)、ミドルウェア・OS・ハードウェアがクラウド化するのがPaaS(Platform as a Service)、アプリケーション・ミドルウェア・OS・ハードウェアの全てをクラウドサービスで利用するのがSaaS(Software as a Service)となる。

 武居氏は、「クラウドでデータセンターも大きく変わる」という。クラウドデータセンターと従来のデータセンターを比較すると、例えば設置面積は約5倍、ラック当りユニット数は約2倍、平均稼働率は約8倍、1人が運用できるサーバ台数は約20〜100倍(2000台)、ITが利用可能になるまでの作業時間は数分〜数時間となる。クラウドデータセンターのスケールは圧倒的に大きく、オペレーションにかかるコストは小さい。

 また、「アプリケーション開発も変化する」(武居氏)。実際に、環境省、経済産業省、総務省が所管するエコポイントのWebサイト構築は、Force.com Sitesを活用し、わずか3週間で開発されたという事例に言及。それが現在2000万人が登録し、ピーク時4000万アクセスを想定したシステムになっているから侮れない。

クラウドサービスは2015年には16倍に成長

 また、ガートナーのイベントで発表された予測によると、全世界のクラウドサービスは年平均で26.5%伸長していくと見られ、2008年の464億ドルから、2013年には1501億ドルにまでになるという。

 一方、富士通が調べた日本国内のIT市場に占めるクラウドサービス比率予測でも、2012年に6.0%、2015年には20.1%へと金額規模が拡大し、2008年比で16倍に成長するという。だが、まだ8割はオンプレミス(企業内で運用されるITシステム)で残存するということも意味し、「このオンプレミス部分をいかにクラウド化していくかが今後の課題」と武居氏は指摘する。

 また、2009年上期に富士通が手がけたクラウドをキーワードとした500件の案件内容によると、SaaSアプリケーション適用の件が6割、自社ITシステムのクラウド適用の件が2割、プライベートSaaS構築に関する件が1割という結果もある。

 その中から、武居氏自身がヒアリングした内容では、業務共通化・資産効率化・標準化への可能性、グループ会社のガバナンス強化、スピードアップ・コストダウンによる新たなICT利活用の拡大といった期待感がある一方で、基幹システムの膨大なデータ処理の性能保証、セキュリティ・信頼性・障害発生時の原因追及、データ信頼性・運用性・保全性の保証、いままで培ってきた技術・文化・作法との連続性といった課題や懸念も多かったという。

 そこで武居氏は、クラウドを始める企業に対し、「まず整理整頓から始め、方針整理をした上で、特性を見極めてサービス化するもの・自社で構築するものの選択基準を作成すべき」とアドバイスする。その上で、パブリッククラウド、プライベートクラウド、エンタープライズで行うものに分けて活用していくことが重要と説明する。

富士通のクラウド戦略は信頼性が強み

 富士通は現在、「ハイブリッドクラウドインテグレーション」を提唱し、クラウド利用の全体像を描きはじめている。これは、社内のICTを外に出すものと自社で管理するものとに分類した上で、サイロ化したバックエンド(情報システム領域)をプライベートクラウド化し、フロント(現場のユーザー)のSaaS活用や社会インフラ、さらには他社クラウド、パブリッククラウドとも連携させることで、コストダウンと業務のスピード化、ICT利活用分野の拡大を狙うものだ。

 また同社は、「トラステッドクラウド」への取り組みも表明している。2009年4月にSaaS事業を大幅強化することを発表して以降、10月には企業内クラウドを支えるインフラ製品群の提供を開始し、11月にクラウドコンピューティング間連携の国際標準化グループのリーダーシップボードメンバーに就任。さらに、同月には次世代サービスの新拠点となる館林システムセンターの新棟をオープンさせている。

 「トラステッドクラウド」の取り組みとして、IaaSにおいて数十分以内に仮想環境を提供するリソースプラットフォームを2010年度内に提供予定。また、PaaSでは社内向けにSaaSを提供するためのアプリケーションプラットフォームを提供中。さらにはSaaSによる業務特化型・共通業務型アプリケーションサービスをクラウドで利用できるようにする。特にSaaSでは既に34種類の商品をリリースし、2009年度中に54商品まで拡大する計画だ。

プライベートクラウドを成功させる3つのポイント

 「現在、アプリケーションを抜本的に作り直してPaaSやSaaS化する企業はほとんどない。先の見えない経済不況を乗り切るため、仮想化統合の延長で全てのIT資産を合理化して切り出す基盤を、IaaSで構築することに関心が高まっている」と武居氏は分析する。  そこで富士通では、データセンター運用の自動化・見える化を進めるため、以下の3つのポイントを中心に、仮想化・自動化・システム管理の製品体系で顧客のプライベートクラウドをサポートしていくという。

 1つ目は、迅速なサーバ配置の実現。仮想環境、機種、OSの違いを意識することなく、統合管理コンソールからマルチプラットフォーム環境でのリソース管理を可能にする。また、サーバ構築や設定の手順をパッケージ化し、テンプレートで配布することで自動化も進めるという。

 2つ目は、オペレーションコストの低減。各種プラットフォームのサーバ構成情報の収集からパッチ適用までを自動化することで、オペレーションコストを低減し人的ミスを撲滅するという。

 そして3つ目は、システム信頼性の確保。万一のトラブル時に予備サーバへの切替えやシステムの自動復旧など、システムの復旧作業を自動化することで業務停止時間を短縮する。

 これらに加え、富士通ではプライベートクラウド適用支援も行っており、導入ワークショップやアセスメントの調査・企画から、要件定義・設計・構築・移行の各種支援、運用・評価・保守の支援まで、マルチベンダー・マルチプラットフォーム環境でも実施している。

クラウドも一歩間違えばドロ沼に…

 最後に武居氏は今後想定されるクラウドの展開を予測。「企業グループのICT戦略に基づいた展開が基本となるが、まずは自社内の中核事業を対象とした企業内クラウドからスタートし、企業グループクラウド、業界内クラウドへと展開し、最終的には他業種クラウドにまで発展する」と見ている。

 また同氏は、クラウド導入における陥りがちなリスクにも言及する。「クラウド利用の標準化をせず、利用部門ごとにパブリッククラウド利用を乱発することや、組織・顧客・プラットフォームごとに個別最適化されたままでの導入するケースなどが多い」と述べる武居氏は、社内外でクラウド環境が林立し、クラウドのサイロ化が発生することを懸念する。

 そのため、まずは現状を可視化することが第一歩だという。既存資産だけではなく今後の計画も含めて見える化し、標準化によって2〜3年後のあるべき姿を策定する。

 武居氏は膨大な商談件数から得た教訓として、「あまり技術に踊らされず、あるべき姿を想定してそこに向けたアプローチを、時間をかけて考えることが結局は成功への近道となる。バラ色に見えるかもしれないが、クラウドはあくまでも道具。一歩間違えば混乱から抜け出せないこともあり得る。皆さんもクラウドで何ができるかについて考えてもらいたい」とアドバイスし、講演を終了した。

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