Apple Computerのファンは長い間、Mac OS Xを使っていれば安全だと指摘することが大好きだった。同OSにはハッカーがほとんど手を出さなかったからだ。しかし、先ごろ3種類の脅威が明らかになったことを受け、一部からは同OSの安全神話がついに終焉を迎えた、との声が上がり始めている。
ここ2週間のあいだに、Mac OS Xを狙うワームが2つ発見されたほか、簡単に悪用できる深刻なセキュリティ脆弱性も同OSに見つかった。この脆弱性により、Macユーザーも悪質なウェブサイトや電子メール経由で悪質なコードがインストールされる脅威にさらされることになった。こうした脅威はこれまでWindowsユーザーが頻繁にさらされてきたものだった。
これらの脅威は、Macを取り巻く環境が大きく変化していることを示すものだが、しかしMacユーザーはあまり心配する必要はないと専門家らは述べている。明らかになった攻撃は、まだ主として理論上のもので、広範囲に拡大しているわけではないからだ。ただし、Appleファンもこれで安心だと思いこんではならない、と彼らは警告もしている。一度こうしたものが出てくれば、悪質なコードを書くほかの連中もMacに目を向け始める可能性が高いからだ。
「これはOS Xを狙う悪質なコード開発の始まりに過ぎない」と、セキュリティベンダーCybertrustのアナリストで、自身も11年来のMacユーザーであるKevin Longは述べている。「Macユーザーに対して慢心してはならないというメッセージを伝える必要がある」(Long)
Windowsユーザーは、絶え間なく押し寄せるように思えるワームやウイルス、そしてセキュリティ脆弱性に慣れているが、Macユーザーはこうしたものに慣れていない。いくつかの掲示板への書き込みを見ると、平均的なWindows PCに比べて、Macのほうがサイバー攻撃に対する安全性は格段に優れていると信じているMacユーザーが多いことが分かる。
「Macを狙う悪質なソフトウェアは、もはや作り話ではない。とてもリアルな問題だ」とDigital Munitionで働くセキュリティ研究者、Kevin Finisterreは述べている。同氏は、Mac OS Xを狙った「Inqtana」ワームの作者だ。Inqtanaは、8カ月前に見つかったAppleのBluetooth用ソフトウェアにある脆弱性を使って感染を拡大する。「Inqtanaを開発したのは、『いい加減に目を覚ませ』と言うためだった」(Finisterre)
Finisterreは、このワームをネットには流さなかった。同氏は、自らの主張を証明し、同じ攻撃手法を使う悪質なソフトウェアに対抗する製品のアップデートをウイルス対策メーカー各社に促すことだけを目的にInqtanaを開発したという。さらに、Inqtanaは感染を拡大しないようにもプログラムされている。
FinisterreはMacユーザーに対し、「ウイルス対策ソフトウェアを購入し、Appleから出されている最新のアップデートを適用して欲しい。そして、自分のマシンは大丈夫だなどと思いこむのはやめることだ。決してそうではないのだから」とアドバイスしている。
Macユーザーに対するリスクは毎日少しづつ増大しているが、これはMacユーザーの数が増えており、それだけ攻撃の可能性も高まっているためだと、Longは説明した。またMac OS Xはこれまで脅威に対して強いと考えられていたことについて、実は悪質なコードの開発者がMicrosoft製品に焦点を絞っていたせいもあると指摘する者もいる。Microsoft製品のほうがユーザー数がベースが大きく、それだけ広い範囲に影響を与えることが可能だ。
「Macintosh OSはウイルスやセキュリティの脅威を寄せ付けない、と考えている人が多い。だが、寄せ付けないわけではない。狙われる機会が少ないだけだ」と、McAfeeのウイルス調査マネジャーCraig Schmugarは述べている。
「慌てる必要はない」
ここ2週間の出来事により、こうした状況が変わる可能性もある。Finisterreは、ハッカーらがAppleに対して関心を持ち始めているとした上で、「いわば、新しく開拓できる分野だと言って差し支えない」と語っている。
それでも、これらのウイルスや脆弱性が重大な結果につながる可能性は低いと、Longは言う。「うまくいけば、ユーザーが多少慎重になるという結末になる。ユーザーはMacのセキュリティに関して慌てなくてもいい」(Long)