装置産業化した金融と流れない人材、六本木ヒルズから眺める不況

飯田哲夫(電通国際情報サービス)

2009-02-09 11:00

 知り合いの紹介で、日本で金融向けのITビジネスをやっているというアメリカ人とランチをすることとなった。六本木ヒルズが都合が良いというので、ヒルズに入っている外資系の金融機関でプロジェクトをやっているのだろうか。六本木ヒルズと言えば、破綻したリーマン・ブラザーズも入っていたところだし、今でもIT関連のプロジェクトの仕事はそんなに無いだろうに。

六本木ヒルズからの眺め

 実際会って話を聞いてみると、やはり現実は厳しく、去年来日して以来急速に景気が悪化したために、外資系金融のITプロジェクトにコントラクトで入ろうとしてもポジションが無いのだという。英語と日本語に堪能かつ経験も豊富そうなのに仕事が無い。やはり結構厳しいのだろう。

 では、何で六本木ヒルズかと言うと、六本木ヒルズ49階にあるアカデミー・ヒルズをオフィス代わりにしているのだという。カフェエリアには、ヒルズからの絶景が眺められる場所にソファーが並び、本を読んだりパソコンに向かったりと皆思い思いに時間を過ごしている。そのアメリカ人、一画にあるノートPCを置いた机を指差して、あそこが僕のオフィスだと。月一万円程度だから、オフィスを構えるよりはよっぽど安い。

 会員制のアカデミー・ヒルズに足を踏み入れるのは初めてだが、ライブラリー・ゾーンの机には結構人がいて、皆パソコンに向かっている。今回会ったアメリカ人も起業して機会を伺っているというところだが、同じような人が結構いるのかもしれない。

金融機関とIT投資

 銀行はその設備投資の半分をITが占めるほどに装置産業化している。外資系を中心に金融機関が人員削減を進める中、金融から金融へと転職することも難しい状況だ。実際感じるのは、金融業界からIT業界へ向かう人材の流れである。ITとは切り離せない業界なだけに、ITリテラシーの高い人たちはIT業界を目指すのである。

 かつて、欧米のソフトウェア業界との付き合いの中で良く感じたのは、金融機関出身でソフトウェアのビジネスに携わっている人たちの多さであった。日本もバブル崩壊時に、かなり金融業界からIT業界へ人材が動いたが、今回の不況も同じ流れを感じることが出来る。

流れない人材

 しかし、今回の不況はグローバル化の進展した経済における不況なだけに、その波及度合いが大きくIT産業も大きく人材放出に動いているのが実態である。本来であれば、人材の流動化がビジネスの発展に繋がるチャンスであるのに、先ほどのアメリカ人のような優秀な人材が遊んでいる状況にある。本当であればこの人材の流動化を活かすべきなのだが、動く側にしてみるとあまりに事態の進展が急であり、受入れる側にしてみると不況の影響が大きすぎる。

明日に向けて

 確かに不要不急のIT投資案件は、軒並みストップしているのが実態だが、顧客企業の戦略投資案件の準備は着実に進行している。今しばらくは辛抱だが、いざ回復基調に入れば急速にビジネスは拡大し始めるだろう。恐らくアカデミー・ヒルズからの眺めを堪能している暇も無いくらいに。これが今の実感である。

筆者紹介

飯田哲夫(Tetsuo Iida)
電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。92年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。
※この連載に関するご意見、ご感想はzblog_iida@japan.cnet.com までお寄せ下さい。

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