最近、新型インフルエンザの予防やパンデミックへの対応について話題になっている。パンデミックとは、ある感染症や伝染病が世界的に流行することを表し、端的に表現すると「感染爆発」とも言われる現象だ。こうしたパンデミックに対し、事業継続管理(BCM)や事業継続計画(BCP)でどのような対策が必要なのだろうか。パンデミックへの対策は、今まで想定されていた地震や火災などの脅威への対策と何が違うのか、また同じなのか、さらにパンデミックを考慮してBCPや情報システム災害対策(IT-DR)を見直すとしたら何がポイントになるのかを検証してみたいと思う。
パンデミックとその感染段階
最近は、パンデミックが起こり得る感染症として鳥インフルエンザウイルスH5N1型が最も可能性が高いと警戒されている。現在も海外において、鳥からヒトへのH5N1型ウイルス感染に関するニュースを耳にするが、まだパンデミックの状態には至っていない。感染が広まる状況として、ヒトからヒトへの感染の症例が現れることが、パンデミックの状態に至る大きな転換期と言われている。世界保健機関(WHO)では、ヒトからヒトへの感染の段階を警報フェーズ4と定義しており、現在はフェーズ3と言われている。詳しくは国立感染症研究所 感染症情報センターのホームページを確認されたい。
また、2009年2月17日に新型インフルエンザ及び鳥インフルエンザに関する関係省庁対策会議が開催され、「新型インフルエンザ対策行動計画」(PDF)が改定されると共に、「新型インフルエンザ対策ガイドライン」(PDF)が公表された。改訂された行動計画では、WHOのフェーズを参考にしつつ日本における感染の段階を定めている。ニュースなどで情報が発信される場合、これらの表現が使われると思うので、一度確認しておくと良いだろう。
(出典:WHO、新型インフルエンザ及び鳥インフルエンザに関する関係省庁対策会議)
WHO | 日本政府 | ||
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流行間期 | フェーズ1 | ヒト感染の可能性のあるウイルスが鳥に出現 | 前段階(未発生期) |
フェーズ2 | |||
警戒期 | フェーズ3 | 鳥よりヒトへウイルスが感染 | 第1段階(海外発生期) |
フェーズ4 | 限定的にヒト・ヒト間の感染が発生 | 第2段階(国内発生早期) | |
フェーズ5 | 第3段階
|
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パンデミック期 | フェーズ6 ※ | 広範囲にヒト・ヒト間の感染が発生 | |
後パンデミック期 | 第4段階(小康期) |
パンデミックの脅威を知る
ここで、過去のパンデミックについて確認してみると、日本でも何度か発生した記録が残っている。過去最悪の記録は1918年〜1920年に発生したスペイン風邪だ。このスペイン風邪の感染者は2300万人、死亡者数は新しい推計によると48万人となっており、甚大な被害を受けたことがわかる。これは関東大震災の死者約14万人よりもはるかに多い死亡者数である。
現在、最も懸念されているH5N1型インフルエンザのパンデミックになった場合、日本政府による想定感染者数は、日本の全人口の25%にあたる3200万人で、そのうち2%の64万人が死亡すると言われている。また就業における欠勤率が40%と想定されているので、この規模のパンデミックになると、多くの企業では業務に影響が出るのは避けられないであろう。
今までの脅威との違いは?
多くのBCMやBCPで想定されている脅威は、日本の場合は特に地震などの自然災害を設定していることが多く、施設や建物が使用できないことによる事業継続への影響を考慮したものだ。一方パンデミックの場合、直接影響を受けるのは現場で働く人であり、施設や建物への影響はない。それでも人的資源が制限されるため、最終的には事業活動に関わる全ての機能が制限された状態に進展してしまうのである。