われわれはみな、1つの電子メールアドレスと、1つのパスワードの組み合わせを、認証情報として世界中で使うという考え方から抜け出る必要がある。
認めるべきだ。あなたはパスワードを1つしか持っていない。子どもの頃に飼っていた猫の名前に関係するパスワードを半ダースくらいは持っているかも知れないが、それは基本的には同じパスワードであり、それをAmerican Expressにも、Netflixにも、Bank of Americaにも、Gmail、Comcast、MySpace、Fark、Twitter、Virgin America、Ebay、New York Timesにも、あるいはあなたが取り付かれたように集めている19世紀後半のヤクの係留索について情報交換をする掲示板でも使っているのではないだろうか。
大したことではない、とあなたは思っているだろう。あるサイトで同じパスワードを使ったからと言って、他のサイトのセキュリティには影響はないはずだ。例えば、あなたのNetflix(米国最大級のオンラインDVDレンタル会社)のアカウントが誰かに破られたとしても、起こりうる最悪のことは、あなたの映画の好みは「ブレードランナー」や「ロッキー」といった名画ではなく、「きみに読む物語」や「ナショナルトレジャー」などの三文映画だということがばれてしまうくらいのものだろう。そのサイトからクレジットカード情報が盗まれて他の場所で使われるということもないし、パスワードを盗んだ人物が、あなたが使っている他のウェブサイトをすべて調べられるというものでもないだろう。
あなたは、無数のウェブサイトで同じユーザー名、同じ電子メールアドレス、同じパスワードを使っている場合、ログインの際に必要な認証情報の秘密の強さは、あなたが使っている一番弱いウェブサイトに依存してしまうということを忘れている。言い換えれば、もしあなたが50あまりのウェブサイトで同じユーザー名とパスワードを使っていれば、その認証情報の強さは、50のシステムの中で、自分のウェブアプリケーションがハックされ認証情報を盗まれてしまうことに対して、一番無頓着なシステム管理者に依存してしまうと言うことだ。これでも大したことはないと言えるだろうか。
例えば、誰かが未だにPHPNukeを使っているサイトに片っ端から攻撃をかける際、その一部としてあなたの使っているyakbridletrader.comが攻撃を受けたとしよう。そして彼らが、そのサイトのユーザー名とパスワードをオンライン上で公開し、衆目にさらしてしまったとする。誰かがあなたの電子メールであるyakguy@gmail.comがその表の中にあるのに気づき、GMailのサービスでyakbridletrader.comのパスワードを試してみたとする。そこから、彼らはクレジットカードの情報などにもたどり着く・・・どういうことが起こりえるか、分かってもらえただろう。