--iSOFTの事業戦略は?
iSOFTは、単にLinux開発のみに注力しているわけではなく、データベースやミドルウェア、組み込みソフトウェアなどを包括的に扱う「基本ソフトウェア」の開発企業なのです。
私自身は2000年からLinuxビジネスを手がけています。Linux事業には大きな魅力がある一方で、問題点もいくつかあります。現在は多くの企業、多くの開発者がOSSに取り組んでいますが、現在のビジネスモデルでは、Linuxの開発そのものから収益を得ることは難しく、別の収益源から得られた利益を開発に投じている形です。しかも、その資金投下は将来的に回収できる見込みのある“投資”とは言いにくい状況です。iSOFTでは、こうした状況を打開できる新しいビジネスモデルを検討しているところです。
iSOFTとしては、いくつかの戦略を立てて事業に取り組んでいます。第1段階は、各地に分散しているソースを統合し、集中することです。そのために、中国国内でCS2Cを買収したのもその一環ですし、今回ターボリナックスと提携してターボシステムズを設立したのもそうです。第2段階は、技術と業務のイノベーションを起こすことです。
現在、Linuxの成長を妨げている要因がいくつかあると考えています。まず、産業としてのチェーンが完全になっていません。不足している要素がいくつかあるのです。そこでiSOFTでは業界のチェーンを完璧なものにして、より大きな発展を目指していくつもりです。
具体的な製品計画としては、「新たな技術プラットフォーム」を開発しようと思っています。OSとデータベース、ミドルウェアを組み合わせた統合製品という形になるでしょう。現在は、OS、データベース、ミドルウェアといったソフトウェアコンポーネントをユーザーが独自に組み合わせているのですが、これをあらかじめ統合済みのスイート製品として提供していく方向です。さらに、開発ツール、データツール、セキュリティツールなども含めていくことを構想しています。こうしたプラットフォームが完成し、これをインターネットから自由にダウンロードして利用できるようにすれば、多くのユーザーや開発者がこれを利用し、さらにはプラットフォーム自体の進化に貢献してくれるでしょう。
そうして、全世界の開発リソースを統合していくことができればと考えています。LinuxはOSSであり、大勢の人の協力によって作り上げられていくものです。そのため、われわれも世界中の多くの開発者と協業できればよいと考えています。iSOFTとしては、ターボリナックスのみに限定するのではなく、今後もさまざまな企業との協力関係を構築していきたいと考えています。
--今回のターボリナックスとの提携の意図は何だったのでしょう。
ターボシステムズはターボリナックスとの提携の結果生まれた会社です。
ターボリナックスは日本で長い歴史を持つ企業で、日本の技術や日本の市場の要求を熟知しているので、まずは日本のビジネスに専念することになるでしょう。とはいえ、iSOFTが目指す「新たな技術プラットフォーム」の開発に関してターボリナックスの技術と歴史が大いに役立つはずだと期待しています。
ターボリナックスはLinux業界で長い歴史を誇る企業であり、歴史に裏付けられたブランド力があり、業界や市場に対して働きかけることができる影響力もあります。これはiSOFTにとっても魅力的なポイントです。さらに、ターボリナックスが擁する開発チームの技術力も魅力的です。この、ターボリナックスのブランド力と開発チームの技術力が提携実現を後押ししたと言えるでしょう。
現時点では、ターボリナックスの中国での開発チームはまだ人員が不足しているので、製品開発には多少時間を要することになりそうです。一方、iSOFTは中国国内に大規模な開発チームを持っていますので、両社がコミュニケーションを密にして協力することで開発のスピードを速めていきたいと考えています。
直近の製品計画に関して言えば、iSOFTは中国国内に開発スタッフや人脈などの優れたリソースを持っていますから、これをターボシステムズに紹介し、日本で展開していければと計画しています。また、ターボリナックスはこれまで日本で開発、提供してきた多数の製品やサービスを持っています。iSOFTは中国市場については詳しく知っていますから、ターボリナックスの技術や製品を中国国内に展開していく際の支援も提供するつもりです。
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中国企業には「損得勘定に厳しく、商売上手」というイメージがあったのだが、Zhao氏が語った「全世界の開発リソースを統合してよりよいシステムを生み出す」という未来像は、商売を離れたオープンソース推進者の理想といった趣であり、正直意外な印象であった。ターボシステムズの代表取締役社長を兼務する、ターボリナックスの取締役技術統括兼CTOの谷口剛氏が両社の提携を実現した最大の要因として挙げたのは「『アジアNo.1を目指す』という大目標が一致していることが分かったこと」だと語っていたのも、この提携が単なる商売上の損得の話ではないことの表われだろう。
両社の提携によって「アジア全体を1つにしていく」という理想が実現できるのかどうか、今後の具体的な開発成果に期待したい。