これまでいろいろと述べてきたが、職務怠慢と言われないように、Hamilton氏がこのプレゼンテーションで言い紛らわしたこともいくつか紹介しておこうと思う。
「好きな色を選んでくれて構わない。ただし、黒色であることが条件だが」。これはHenry Fordが1909年、「Model T」に関して述べた有名な言葉だが、今日の大規模インフラストラクチャとプラットフォームクラウドに関する基本的な事実を踏まえてFordの言葉を言い換えると、「好きなアプリケーションを構築してくれて構わない。ただし、プロバイダーが指定したインフラストラクチャアーキテクチャに適合することが条件だが」となる。インフラストラクチャ自体の構成を変更できる余地は、全く存在しないというわけではないが、極めて限定的である。例えば、「Tomcat」の一部のユーザーは、そのアプリケーションサーバのクラスタリングメカニズムに手を加えて、「Amazon Elastic Compute Cloud(EC2)」で機能するようにしなければならなかった。なぜか。Amazonはマルチキャスティングを認めておらず、近いうちにそれを認めることにも興味を示していないからだ。ほかにも、セキュリティ構成オプションが限られていることや、大規模なIaaSサービスのユーザーが「自分でしなければならないこと」の多さ、といった例がよく見られる。それが導入を中止する理由になり得ると言っているわけではない。なぜなら、提供されているもの以外で必要なものはあまりないかもしれないし、「enStratus」のような管理プラットフォームを通して追加のセキュリティ機能を利用できるからだ。しかし、リスク軽減は企業のデータセンター投資における重要な部分である。その点に関して、クラウドに移行した際に受け入れなければならないことを認識しておくのは、無駄なことではない。
価格がすべてではない。基本的なCPU、ストレージ、ネットワーキング機能を可能な限り安い価格で入手することだけがコンピューティングの存在理由であるなら、高可用性インフラストラクチャや高性能コンピューティング、多種多様なデータセンターセキュリティのソフトウェアおよびハードウェアなどの市場は存在しないだろう。より専門的なニーズに対応することなく、そうした基本サービスのスケールメリットの最大化に走れば、それらの大規模サービスがすべてのワークロードに対して適切とは言えなくなるだろう。ここではっきりさせておきたいのだが、Amazonはそのことを分かっていると筆者は思う。
企業データセンターが一晩のうちに消えてなくなることはないだろう。クラウド上に新しいアプリケーションを構築することと、既存システムを移行させることは全く別のことである。Hamilton氏の計算は、完全にデータセンターを運用する視点からのものだ。アプリケーションとデータを再構築し、移動するコストは考慮されていない。そして、コストこそが今後しばらくの間、多くのアプリケーションを内部のデータセンターに留めておくであろう「脱出障壁」である。アプリケーションがプライベートクラウドインフラストラクチャへ移行するかどうかはわからない。しかし、それらのアプリケーションは別のものと置き換えられるまで、あるいは節約できる金額が再構築のコストを正当化できるようになるまで、内部に留まるだろう。AT&Tのビジネス戦略担当バイスプレジデントJoe Weinman氏のサイトは素晴らしいもので、パブリッククラウドコンピューティングによって節約できるアプリケーション関連コストの計算方法について論じている。
インフラストラクチャサービスとプラットフォームサービスがデータセンターの経済面に破壊的な影響をもたらしていることに、誰もが感銘を受けるはずだ。企業IT顧客もベンダーもこの現状を注視し、変化するデータセンター業界でどのように振る舞うべきかを正確に理解する必要がある。
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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