10月25日号の「Bloomberg Businessweek」誌に、マイクロトランザクションに焦点を当てた新しいビジネスを展開するCausesという企業が紹介されていた。Causesは、チャリティとその支援者をSNSを通じてネットワーク化し、効率的に寄付を行える仕組みを提供する。すでに2万7000にも及ぶ慈善団体に対して、2700万ドルの支援金集めに貢献している。その支援者のネットワークは、1億1900万人にもなるという。
Causesの面白いところは、そもそもチャリティというNon-Profitな世界に対し、For-Profitなビジネスモデルを持ち込んだこと、そして、マイクロトランザクションをSNSを通じて効率的に集約する仕組みを作ったことである。チャリティの世界では、今でも支援金を集めるためにダイレクトメールや電話を使ったキャンペーンに頼っているのが実情であるという。ちなみに、Causes自身の収益モデルは、支援者からのボランタリーな寄付を募ることと、チャリティ募金への貢献を行う企業からのスポンサーフィーであるという。
マイクロトランザクションという点では、PtoPレンディングや送金の世界の方が先行している。最近では、日本でPtoPレンディングを展開しているAQUSHが米国のベンチャーキャピタルからの投資を受けたというニュースが流れていたが、AQUSHに対する融資申請額は2009年の12月からの累計で11億円、平均貸付額は44万5000円であるという。ただ、実際に融資が承認されるのは11億円のうち20%未満であるそうだ。なお、運用者側から見ると、AQUSHの3年ローンに投資すると、平均利回りは何と7.64%にもなる(AQUSHウェブサイトより)。
一方、送金に関しては、日本でも資金決済法の改正によって、海外送金に海外企業も含めて多くの参入が見込まれているが、たとえば米国でサービスを展開するWestern Unionを使って、ニューヨークからブラジルへ1000ドルを送金すると、その手数料は、即時送金(受け付けてから数分)で20ドル、翌日送金で11.99ドルということで、銀行経由の海外送金と比べるとかなり安い。一方で、同じ送金ルートでも、金額を10倍の1万ドルにすると、即時送金が60ドルで、翌日送金は45ドルとなり、普通の銀行と変わらないか、むしろ高くなる(これらのシミュレーションはWestern Unionのウェブサイトで行ったもの)。
チャリティにしても、融資にしても、送金にしても、いずれもインターネットが普及するよりもはるか以前より存在していたものである。それゆえに、インターネットが存在していない状況に最適化されていて、既存プレーヤーには容易に適応できないところへ、新規参入企業が挑戦している。そういう意味では、規制も追いついておらず、こうした新しいビジネスモデルがボリュームを拡大する中で規制強化の議論が沸き起こる。
しかし、消費者の観点からすると、これら新規参入企業のサービスによって、従来にはなかったサービス、あるいはサービスレベルといったものを選択可能となる。ここに過度な規制が加わって金融サービスにおけるイノベーションが阻害されることがないように期待したい。
筆者紹介
飯田哲夫(Tetsuo Iida)
電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。