日本企業の役員報酬の水準は上昇傾向にあり、2008年のリーマンショック以前の水準近くまで上昇している――。プライスウォーターハウスクーパースが12月2日に発表した「役員報酬サーベイ2010」で、そうした実態が明らかになっている(前回の「役員報酬サーベイ2009」については関連記事を参照)。
上昇傾向にあるという役員報酬の水準は、全企業、一部上場、売上高5000億円以上のどのセグメントでも、同じ傾向が見られるようになっていると説明。中長期的に見て、日本企業の役員報酬水準は上昇傾向にあったが、リーマンショックを機に一時的に減額。だが、ここにきて、従来の緩やかな上昇傾向に戻ってきたと同社は分析している。報酬総額ベースで、1部上場企業社長が3.6%の増加、1部上場企業取締役が7.7%の増加となっている。
役員報酬を巡っては、2010年3月期以降の有価証券報告書に、報酬総額1億円以上の役員の氏名やその総額などを記載することが義務付けられている。これは、「どの企業の誰がいくらもらっているか」という興味からではなく、企業統治(コーポレートガバナンス)に対する規制強化によるものだ。役員報酬がどのように決まっているのかを説明するための“報酬ポリシー”の説明責任(アカウンタビリティ)が求められている。先日、「ユニクロ」を運営するファーストリテイリングの代表取締役会長兼社長の柳井正氏が3億円の報酬を得ていると話題になったのは、こうした背景があるからだ。
今回の役員報酬サーベイ2010では、報酬ポリシーの開示について、積極的な企業とそうではない企業との間に二極化の傾向が見て取れるとしている。報酬パッケージの内容を決めている企業は多いが、その詳細を開示する割合は少なく、実際に開示されている内容は、報酬の要素構成や決定関与機関に関するものになっているとしている。
報酬ポリシーの一環として、報酬を決定するための“報酬委員会”を設置する企業も存在する。実際に報酬委員会を設置している企業は32%。このうち、報酬委員会を新たに設置した企業は18%となっている。義務化を受けて、報酬決定プロセスの透明性を高める動きが進展していると分析している。
回答企業のうち、社外取締役を選任する企業は60%と、前回より6%の増加。社外取締役の選任で重視する基準として“独立性”を挙げている企業が多いという。
調査では、業績連動報酬や株式報酬などの変動報酬の導入比率が増加傾向にあり、業績連動性への取り組みが進展していると評価している。中長期インセンティブでは、ストックオプションの導入割合が回復しているが、一方で株式報酬型ストックオプションの導入割合は安定的に推移していると分析している。
変動報酬については、「固定報酬+退職慰労金」のグループA、「固定報酬+業績連動報酬」のグループB、「固定報酬+業績連動報酬+株式報酬」のグループCの3つに分けて分析。BとCの役員報酬総額は、Aと比較して高いとしており、Cの業績連動報酬は、Bと比較して年度ごとの変動が大きく、業績連動報酬がより実質的に収益に連動している可能性が高いと分析している。
調査では、業績連動性向上の潮流を踏まえて、報酬総額を左右する業績特性や企業規模、収益状況を考慮して、適切な報酬体系を整備することが望ましいと提言している。
同調査は2007年から続いており、(外資系企業の日本支社を含む)日本国内の企業を対象に役員報酬水準の経年推移、企業側の対応実態、業績連動性向上の潮流などについて企業103社(対象役員数1718人)から回答を得ている。調査期間は7〜9月。