SAPジャパンのGarrett Ilg(ギャレット・イルグ)氏は3月11日の午後、大手町にある東京サンケイビルの階段を下っていた。同社で社長を務めるという立場に加え、会議に出席することもあり、およそ10人を連れての移動だった。「運動のためにも日頃から階段を使って移動している」とイルグ氏は言う。
午後2時46分、マグニチュード9.0の大地震が東日本を襲った。地上31階、地下4階のサンケイビルは大きく揺れ、階段では人が交差し、恐怖のために取り乱す者もいた。
東日本大震災での意思決定プロセス
東日本大震災の発生後、本社機能を関西に一時移転するなどの措置をとる企業があった。SAPジャパンもその中の一社だ。こうした措置は「日本から逃げた」とも「従業員の安全確保は当然」とも表現された。
3月30日、SAPジャパン代表取締役社長のイルグ氏がZDNet Japanのインタビュー取材に応じた。トピックは、地震発生後に実行した施策と、震災対応にあたっての意思決定プロセスだ。
従業員の安否確認
地震発生直後、イルグ氏がまず着手したのは従業員の安否確認だ。セールス、コンサルティング、マーケティングなどの各チームメンバーが、それぞれのフィールドで行動している。彼らの安否を確認することが、会社として取った最初の行動だったという。
「(本社のある)大手町だけでなく、茅場町にもチームがいる。あらゆるリソースを使って、すべての社員の安否確認のために行動を起こした」
1000人超の同社従業員と訪問中の顧客の安否確認は約1時間で終了した。各地域に散らばる従業員を大手町の本社へと移動させ、改めて安否を確認したという。
自宅が比較的近い従業員は、午後4時には徒歩で帰宅を始めた。電車が動かない状況にあるなか、イルグ氏は残る社員に仲間とともにいるよう指示を出した。「単独で行動するよりも、集まって一緒にいる方が心強い」(イルグ氏)からだ。できる範囲で宿泊施設を手配したが、自ら進んで自宅を開放し、同僚を避難させる社員もいた。イルグ氏は「気持ちを落ち着けられるような環境作りにつとめた」と、当時を振り返っている。
イルグ氏自身は、12日の午前1時から電話会議に臨んだ。二人の共同CEO(最高経営責任者)、CFO(最高財務責任者)、グローバルフィールド代表プレジデント、危機管理担当役員などが参加する電話会議だ。
「電話会議では、次のアクションとして何が必要であるかを話し合った。ドイツ本社は、日本法人の社長である私に対して、すべての権限を与えた。顧客サポートを継続すること、社員の安全を確保すること、我々の事業を継続するためにあらゆる措置をとることを目的とする決定だった」
イルグ氏が帰宅したのは11日の深夜(12日)。家族とは地震発生直後にSMSで連絡を取り合い安否を確認していたため、社に残って対応を続けたという。